研究実績の概要 |
テナガザルは現生類人猿の中で最も表現型の多様性に富み、それらの多様な形質は強く遺伝的に支配されていることが示唆されているが、それらを司る遺伝子/ゲノム領域は特定されていない。本研究では、ゲノムのドラフト解析データ、テナガザルを特徴付ける形質と関連する遺伝子の構造・修飾・発現解析を通じ、テナガザルとその多様性を特徴づけるゲノム・遺伝子背景を明らかにすることを目的とした。 精しょう凝固に関連するタンパク質セメノジェリンの遺伝子SEMG1,2の配列をテナガザル科の3属6種において決定した.。60アミノ酸のリピート構造をもつSEMGタンパク質は、リピート数に種間差があり、その差が凝固と関連している。SEMG1についてはリピート構造は3属で一致していたが、SEMG2は属ごとに異なるリピート数をもつことがわかった。 ミトコンドリアゲノム情報から分子系統を明らかにする目的で、再検討をおこなった。Cytbの1140 baseによる分子系統樹ではHylobates属内の種間関係の支持率は低く、使用に耐えないため、ミトコンドリア全ゲノムを用いて解析した。未報告のHylobates albibarbisの配列を決定した。 ゲノムワイドの解析が必須と考えられたため、GRAS-Diによる解析を3属48個体について外部委託でおこなった。得られた生データから、変異の抽出・ふるいわけをおこない、約36万サイトを選択した。現在、このデータセットを用いて集団遺伝学的解析を進めている。 新たなフィールドの開拓のため、ミャンマーのヤンゴン大学動物学科Aye Mi San教授、Aung Aung講師と野外研究の現状と今後の協力について打ち合わせをした。また、ミェック大学動物学科のKhin Su Su Lwin助手と、ヤンゴン動物園、ネピドー動物園でのテナガザルの情報収集をし、次年度以降の研究協力体制を強化した。
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