研究実績の概要 |
本研究では、既存テナガザル細胞・DNAを材料として用い、核型進化の観点から、全ゲノム既公開のホオジロテナガザルをレファレンスとして、属特異的な染色体切断ー融合部位の配列解析をHylobates属とSymphalangus属を併せ行い、テナガザルに特徴的なゲノム改変を明らかにすることを目指した。 テナガザル属に含まれる現生テナガザルの自然交雑はいくつかの種の交接分布域で観察されているが、現在および可能な歴史的接触帯における交雑と遺伝子移入の歴史と程度は不明なままであった。テナガザルの系統と進化における交雑の程度を明らかにするために、テナガザル7種/亜種についてGRAS-Di解析による遺伝子型決定をおこなった。200,000を超える常染色体一塩基多型部位を同定し、大陸部と島嶼部のテナガザル種の分岐が約350万年前に起き、その後スンダ島嶼種の間で分岐が進んだことを支持した。 H. larとH. pileatus間、H. larとH. agilis間、およびH. albibarbisとH. muelleri間で、有意な遺伝子移入の証拠を検出した。遺伝子移入の証拠は、これらの種の分析した全ての個体で検出され、種の遺伝子プール全体に浸透している可能性を示唆した。すなわち、これら種間における交雑の歴史は比較的古いことが示された。対照的に、スンダ島嶼種では、鮮新世と更新世の氷河期に地続きであったにもかかわらず、交雑の証拠は得られなかった。 保全の観点から、国内保有のテナガザルについて、ミトコンドリアDNA(cytochrome b)の配列情報に基づき、種・亜種を同定し、今後の飼育管理・繁殖計画に有用な情報を提供した。
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