上皮組織損傷をスイッチとして稼働する神経依存性の新たな創傷治癒メカニズム

2020 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 18H02524
• 研究機関: 名古屋大学
• 研究代表者: 桐生 寿美子 (瀬尾寿美子) 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (70311529)
• 研究期間 (年度): 2018-04-01 – 2022-03-31
• キーワード: 組織修復 / 創傷治癒 / 免疫応答 / 神経再生 / 神経変性 / ペプチド / プロテアーゼ

研究実績の概要

本研究では組織損傷後の神経依存性創傷治癒制御機構を明らかにすることを目的とし、神経損傷に応答し発現誘導されるユニークな特徴を有する膜一回貫通型メタロプロテアーゼDINE (Damage induced neuronal endopeptidase) に焦点を当て研究を進めた。組織損傷を受けると同時に損傷される神経でDINEは発現誘導され軸索末端まで輸送され損傷神経周囲微小環境内の細胞動態を制御することがこれまで明らかになっている。このことはDINEが自身のプロテアーゼ活性を介して基質ペプチドをメディエーターとして損傷環境内の細胞動態に影響を及ぼす可能性を示唆する。損傷神経周囲では免疫応答の活性化が顕著であることから、損傷神経末端に局在するDINEの標的細胞として好中球やマクロファージなどの代表的な免疫細胞を考えこれまで共培養システムを用いて解析を進めてきた。しかし損傷微小環境は複雑な多くの細胞集団からなりこれら以外の標的細胞が多数存在する可能性を無視することはできない。そこで本年度は損傷神経周囲の微小環境内の細胞を個別に探索・解析するためシングルセルRNA seqを行うことにした。これまで恒常的にDINEがノックアウトされたマウスを実験に使用してきたが、恒常的DINE欠損により損傷前にすでに生体システム内の免疫系などに影響を及ぼしている可能性が十分考えられる。このためDINE floxマウスと損傷神経細胞特異的Creマウスとを交配し損傷神経細胞特異的にDINEをノックアウトすることが可能なマウスを作製し実験に使用した。コントロールマウスと損傷特異的DINE CKOマウスの損傷神経軸索末端から有核細胞をソーティングしサンプル調整後シングルセルRNA seqを実施し、損傷神経周囲の微小環境内細胞の個別解析を試みた。

現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

マウス準備やシングルRNA seqのためのサンプル調整の条件検討に多くの時間を費やしたため実験計画に遅れが生じている。

今後の研究の推進方策

昨年度に引き続き、DINEによる神経依存性創傷治癒環境制御を解析する。遅れが認められるシングルセルRNA seqのデータの解析を積極的に進める。データ解析により方向性が得られたら、in vivoでの組織学的および生化学的検討を進めるとともに、昨年までにある程度のシステムを確立している共培養系を用いて実験を行い基質同定につながる細胞動態の変化を明らかにしたい。最終年度であることを考慮し、これまでのデータをまとめ不足分など適宜追加しながら論文投稿へ向けての準備を進める予定である。

研究成果

• [雑誌論文] Zonisamide ameliorates neuropathic pain partly by suppressing microglial activation in the spinal cord in a mouse model (2020)
  • 著者名/発表者名: Hiroyuki Koshimizu, Bisei Ohkawara,Hiroaki Nakashima, Kyotaro Ota, Shunsuke Kanbara, Taro Inoue, Hiroyuki Tomita, Akira Sayo, Sumiko Kiryu-Seo, Hiroyuki Konishi, Mikako Ito, Akio Masuda, Naoki Ishiguro, Shiro Imagama, Hiroshi Kiyama, Kinji Ohno
  • 雑誌名: Life Sci 巻: 263 ページ: 118577
  • DOI: 10.1016/j.lfs.2020.118577
  • 査読あり
• [雑誌論文] TC10, a Rho family GTPase, is required for efficient axon regeneration in a neuron-autonomous manner (2020)
  • 著者名/発表者名: Shingo Koinuma, Ryota Negishi, Riko Nomura, Kazuki Sato, Takuya Kojima, Eri Segi-Nishida, ;Ryo Goitsuka, Yoichiro Iwakura, Naoyuki Wada, Yoshiki Koriyama, Sumiko Kiryu-Seo, Hiroshi Kiyama, Takeshi Nakamura
  • 雑誌名: J Neurochem 巻: - ページ: -
  • DOI: 10.1111/jnc.15235
  • 査読あり
• [学会発表] Injured motor neurons lose polarity in a proteasome dependent manner to increase the mitochondrial transport into regenerative axons (2021)
  • 著者名/発表者名: Sumiko Kiryu-Seo, Reika Matsushita, Yoshitaka Tashiro, Ryosuke Takahash, Takeshi Yoshimura, Yohei Iguchi, Masahisa Katsuno, Hiroshi Kiyama
  • 学会等名: 第１２６回日本解剖学会総会・全国学術集会/ 第９８回日本生理学会大会合同大会
• [学会発表] Analysis of pain mechanism in an animal model for the fibromyalgia induced by repeated cold stress (2021)
  • 著者名/発表者名: Koji Wakatsuki, Masaya Yasui, Sumiko Kiryu-Seo, Hiroshi Kiyama
  • 学会等名: 第１２６回日本解剖学会総会・全国学術集会/ 第９８回日本生理学会大会合同大会
• [学会発表] The proteasome-mediated AIS plasticity contributes to the increased transport of mitochondria in damaged motor axon (2020)
  • 著者名/発表者名: Sumiko Kiryu-Seo, Reika Matsushita, Yoshitaka Tashiro, Ryosuke Takahashi, Takeshi Yoshimura, Yohei Iguchi, Masahisa Katsuno, Hiroshi Kiyama
  • 学会等名: 第６３回日本神経化学会大会
• [学会発表] 損傷運動ニューロンの軸索再生・変性に関わるプロテアソーム依存性ストレス応答 (2020)
  • 著者名/発表者名: 桐生寿美子、松下鈴佳、田代善崇、高橋良輔、吉村武、井口洋平、勝野雅央、木山博資
  • 学会等名: 第10回名古屋大学医学系研究科・生理学研究所合同シンポジウム