研究課題/領域番号 |
18H02525
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
木下 専 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (30273460)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | シナプス / スパイン / 長期増強 / 空間文脈 / 長期記憶 / 滑面小胞体 |
研究実績の概要 |
興奮性シナプス伝達の長期増強(LTP)の分子基盤は脱分極後のシナプス後膜上グルタミン酸受容体の増加である。アクチン重合による樹状突起棘(スパイン)拡大もその維持に寄与するが、数時間で減衰する(early LTP, E-LTP)。より長期の維持(late LTP, L-LTP)には強いシナプス入力と新規蛋白質合成が必要であるが、メカニズムには不明な点が多い。我々は、1) ラット海馬歯状回顆粒細胞への入力シナプスを電気刺激してL-LTPを誘導すると、アクチン重合とともにセプチン・サブユニットSEPT3がリモデリングすること、2) Sept3欠損マウスは空間文脈記憶を長時間保持できないこと、3) 2)の責任領域である顆粒細胞シナプスでは滑面小胞体(ER)含有スパインが少ないこと、4) 初代培養顆粒細胞でSEPT3を欠乏させるとスパイン内へのERの侵入が阻害されること、を示した。スパイン内ERはCa2+や脂質代謝を介してシナプス伝達ないしLTPを修飾すると推測されるが、侵入メカニズムはほとんど知られていない。そこで「スパイン内へのERの侵入は、①強いシナプス入力で誘発され、②SEPT3によって促進される」という2つの仮説を立て、検証した。その結果、強いシナプス入力(を模倣するGLU+FSK 刺激)に応じて持続的に拡大するスパインにERが侵入することと、ERの侵入にSEPT3が必要であることがわかった。一方、弱いシナプス入力(を模倣するGLU単独刺激)では、スパイン拡大が小規模で、早期に減衰し、ERは侵入しないという結果を得た。「シナプス入力強度―スパイン拡大の規模―スパイン拡大の持続性―ER侵入」の関連を一貫して認めたことを受け、「スパイン内ERはE-LTP からL-LTPへの転換(ないしはL-LTPの持続)に寄与する」という新たな仮説を立て、検証を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海馬DGニューロン分散培養系において、実験に適したスパインの選択条件と、標的スパインの持続的拡大を高い再現性で誘導できる刺激条件が本研究で確立し、初投稿に必要なデータはほぼ得られた。
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今後の研究の推進方策 |
SEPT3は、シナプス入力に応じたスパイン拡大には不要である一方、拡大スパインへのER侵入には必要であることを示した。これはSept3欠損マウスのDGシナプス形態異常とも符合する。ERは Ca2+、脂質メディエーター、輸送 小胞などの供給源であるが、スパイン内での存在意義は不明である。そこで 「スパイン内ER がシグナル伝播の増強ないし樹状突起基幹部への波及を通じてLTPの長期持続に寄与する」という仮説を立て、スパイン拡大後かつER侵入前後のCa2+動態を、本研究で確立した手法で解析し、検証する計画である。DGニューロンを用いた先行研究がないため、Ca2+イメージングと薬理学的手法を組み合わせて検証を進めつつ、論文執筆中である。
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