研究課題/領域番号 |
18H02528
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
実吉 岳郎 京都大学, 医学研究科, 准教授 (00556201)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 記憶 / シグナル複合体 / CaMKII / アクチン細胞骨格 |
研究実績の概要 |
記憶を規定する最小単位のシナプスでは入力刺激を受けると伝達効率および構造に持続する変化が生じる。しかし、一過的な刺激を持続する生化学反応へ変換するメカニズムは不明である。我々は、この過程において酵素(CaMKII)が基質(Rac活性化因子TIAM1)との結合により相互に活性化しあう自己活性化複合体となりシナプス構造を維持することを見出した。さらにCaMKIIとTIAM1以外の基質の結合も発見したため、より大きな概念として記憶の形成・維持には、CaMKIIと基質による自己活性化型タンパク質複合体が必要であるという新しい仮説をたてた。この仮説を立証するため、以下の3つの実験計画を行っている。 計画1 自己活性化型複合体のできないCaMKIIノックインマウスによる記憶学習解析 CaMKIIノックインマウスを用いた行動テストを行った。恐怖条件付け試験では、ヘテロ接合体マウスは記憶障害が認められた。また、ホモ接合体は、産仔をうまく育てない表現型がみられた。しかし、人工授精を利用し、効率よくホモ接合体を得る方法を見つけたので、行動試験を実施可能な状態になっている。 計画2 CaMKIIノックインマウスを用いたCaMKII結合因子の網羅的探索およびリン酸化解析 現在、ノックインマウスのホモ接合体より海馬組織での質量分析計を用いたリン酸化解析中である。また、結合分子の解析は脳組織より免疫沈降可能な市販の抗体を試みたが、効率よく免疫沈降させるものが見つからなかった。ウイルスによる一過的発現系に切り替えている。 計画3 CaMKII複合体によるシナプス可塑性制御:LIMK1-CaMKII複合体の解析 LIMK1にあるCaMKII結合領域の絞り込みを行ない、責任領域の絞り込みができてきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画1 自己活性化型複合体のできないCaMKIIノックインマウスによる記憶学習解析 CaMKIIノックインマウスを用いた行動テストを行った。恐怖条件付け試験では、ヘテロ接合体マウスは長期記憶に障害が認められた。また、ホモ接合体は、産仔をうまく育てない表現型がみられた。しかし、人工授精を利用し、効率よくホモ接合体を得る方法を見つけたので、行動試験は実施可能な状態になっている。ホモ接合体の表現型(体格、行動)はヘテロよりも相当シビアであるため、神経発生など学習障害以外の影響が考えられる。バッテリー試験や組織化学的解析を行い、原因を究明する。 計画2 CaMKIIノックインマウスを用いたCaMKII結合因子の網羅的探索およびリン酸化解析 現在、ノックインマウスのホモ接合体より海馬組織での質量分析計を用いたリン酸化解析中である。また、結合分子の解析は脳組織より免疫沈降可能な市販の抗体を試みたが、効率よく免疫沈降させるものが見つからなかった。ウイルスによる一過的発現系に切り替えている。現在のところ、簡便な眼窩への注入による神経細胞特異的に外来タンパク質を発現させるウイルスベクター実験系を確立できたので、結合因子の網羅的探索を行う。 計画3 CaMKII複合体によるシナプス可塑性制御:LIMK1-CaMKII複合体の解析 LIMK1にあるCaMKII結合領域の絞り込みを行ない、責任領域の絞り込みができてきた。しかし、責任領域は単一ではなく、複数あることがわかった。また、CaMKIIと液―液相分離を起こす検討したところ、カルシウムイオンによる相分離の形成が見られた。今後は相分離の観点を加えて解析していく。
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今後の研究の推進方策 |
計画1 自己活性化型複合体のできないCaMKIIノックインマウスによる記憶学習解析 ホモ接合体の表現型(体格、行動)はヘテロよりも相当シビアであるため、神経発生など学習障害以外の影響が考えられる。バッテリー試験や組織化学的解析を行い、原因を究明する。バッテリー試験では、一般的な体格、運動、認知、学習能力を検査する。組織化学解析では、神経の成熟度に違いが見られるか、免疫染色により野生型と比較する。また、シナプス形成についてはマーカータンパク質の免疫染色およびDiI染色によるスパインの密度と形態を検討する。 計画2 CaMKIIノックインマウスを用いたCaMKII結合因子の網羅的探索およびリン酸化解析 CaMKII結合分子の解析をウイルスによる一過的発現系に切り替えた。簡便な眼窩への注入により神経細胞特異的に外来タンパク質を発現させるウイルスベクター実験系を確立できたので、結合因子の網羅的探索を行う。ウイルス注入後の時間で最大の発現量になど実験条件を最適化する。実験条件が整い次第、LTPを消失させるCN21の有無による結合タンパク質の変化について検討する。また、リン酸化解析の結果と合わせ、どのようなシグナル複合体を形成するか、インビトロ再構築系を用いて検討して行く。 計画3 CaMKII複合体によるシナプス可塑性制御:LIMK1-CaMKII複合体の解析 LIMK1にあるCaMKII結合領域の絞り込みを行ない、責任領域の絞り込みができてきた。しかし、責任領域は単一ではなく、複数のドメインであることがわかった。結合ドメインを複数持つことは相分離を形成する条件の一つである。CaMKIIと液―液相分離を起こす検討したところ、カルシウムイオンによる相分離の形成が見られた。特に今後は相分離の観点を加え、塩濃度、リン酸化、FRAPを用いたタンパク質動態を検討する。
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