研究実績の概要 |
本年度は以下のような項目について研究をおこなった。 (1)小脳苔状線維シナプスは高頻度刺激に対して伝達物質放出を持続的に維持することができる。この高速かつ持続的な伝達物質放出のメカニズムを探るため、単離シナプス終末標本に膜電位固定法と全反射蛍光顕微鏡技術を適用し、シナプス小胞の動態を観察した。calyx of Heldシナプスや海馬苔状線維シナプスと異なり、シナプス小胞が形質膜に接着してから伝達物質放出可能になるまでの時間(priming time)が高速であり、これにより、持続的な伝達物質放出が可能になっていることが示唆された(Miki et al., 2020, PNAS)。 (2)海馬苔状線維シナプスでシナプス前終末内のcAMP濃度上昇に対して数分以内にCaチャネルクラスターが拡大し、これにより伝達物質放出量が増大することが電気生理学と超解像光学顕微鏡を組み合わせて明らかになった(Fukaya et al., 2021, PNAS)。 (3)海馬苔状線維シナプスの伝達、短期可塑性メカニズムを調べるため、caged Caを用いて伝達物質放出のCa依存性を調べた。伝達物質放出のCa依存性はほかの中枢シナプスと変わりがなく、伝達物質放出効率の低さはCaチャネルと伝達物質放出部位との緩いカップリングのためであることが示唆された。放出部位付近のCa濃度は5μM程度でほかのシナプスの半分以下であった。この濃度付近は、伝達物質放出がCa濃度にべき乗に比例し、わずかなCa濃度上昇が伝達物質放出の顕著な増大をもたらす。これが可塑性のメカニズムを解く手がかりになるのではないかと示唆された。引き続き、苔状線維シナプスのCa依存性伝達物質放出を詳細に調べることにしている。
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