研究課題
これまでの研究により、野生型マウスの海馬歯状回において、記憶と想起の両方に関与するニューロン(記憶痕跡ニューロン)を同定してきた。そして、野生型マウスの記憶想起時には、このニューロンが有意に増加したが、TSCマウスではその増加は見られなかった。しかし、Rheb阻害薬をTSCマウスに投与すると、TSCマウスの記憶障害が改善し、記憶痕跡ニューロンも増加した。また、Rheb阻害薬投与により、TSCマウスの樹状突起スパイン形態が変化し、野生型に近づくことも見出した。今年度は、記憶痕跡ニューロンが本当に記憶を司るかどうかを証明するため、神経活動依存的に活性化するプロモーターの下流で、チャネルロドプシン(ChR2)-EGFPを発現するAAVウイルスを作製し、野生型マウスの海馬に注入した。次に、光ファイバーケーブルを同側海馬に刺入し、2週間後にオプトジェネティクス実験を行った。具体的には、上記のマウスを文脈Aの環境下に入れてフットショックし、その時に興奮した海馬ニューロン(記憶痕跡ニューロン)にChR2-EGFPを発現させた。翌日、そのマウスを別の文脈Bの環境下に入れ、ChR2-EGFP発現ニューロンを光刺激したところ、恐怖記憶が想起され、マウスのフリーズ行動が有意に増加した。以上の結果から、文脈A下で活動したニューロンは、恐怖記憶に関係しており、そのニューロンを光によって活性化させるだけで、フットショックしない環境下でも恐怖記憶が想起され、マウスはフリーズしたと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、野生型マウスを用いて、記憶痕跡細胞の同定と確認をすることができたから。
野生型マウスで記憶痕跡細胞を同定した手法を用いて、次はTSCマウスの記憶痕跡細胞がどのように変化しているか、またRheb阻害薬による回復が可能かを検証していく。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件)
J Neurosci
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