研究課題/領域番号 |
18H02540
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
笹岡 俊邦 新潟大学, 脳研究所, 教授 (50222005)
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研究分担者 |
南部 篤 生理学研究所, システム脳科学研究領域, 教授 (80180553)
知見 聡美 生理学研究所, システム脳科学研究領域, 助教 (30396262)
木津川 尚史 大阪大学, 生命機能研究科, 准教授 (10311193)
崎村 建司 新潟大学, 脳研究所, フェロー (40162325)
田井中 一貴 新潟大学, 脳研究所, 教授 (80506113)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ドーパミン受容体 / 大脳基底核回路 / 運動制御 / 学習記憶 / 全脳透明化 / パーキンソン病 / 報酬学習/忌避学習 / 画像解析 |
研究実績の概要 |
(1)Arc発現制御により蛍光タンパクdVenusを髙発現するArc-dVenusマウスとD1Rノックダウン(D1RKD)マウスの複合マウスは、D1R欠損状態で、嫌悪記憶形成が低下し、全脳透明化による3次元高解像度解析により、大脳皮質における、嫌悪刺激に続くArc発現が低下した。この結果は、D1Rを介するDA伝達が大脳皮質ネットワーク内の神経活動を増加させ嫌悪記憶形成の促進を示唆している。以上の研究成果を論文報告した。パーキンソン病(PD)において運動異常の理解のため、実際の運動中にドーパミン(DA)の作用の様式と運動能力を、D1RKDマウスやドーパミン受容体阻害剤を脳内に投与したマウスで走行解析装置「ステップホイール」を用いて測定した。 (2)D2RKDマウス作製を目的として、これまでに開発した遺伝子改変マウスは、D2R発現量が低く、目的を達しないことがわかった。そこでDrd2発現依存的にtTAの量を増やすために、tTA遺伝子をタンデムに複数個つなげたカセットをノックインしたDrd2-multi-tTAマウスの作製に取り組んでいる。 (3)視床下核のNMDA受容体はMg2+ブロックが弱く、活性化し易い特徴がある。この特徴が異常発振に関連するか検証する為、Cre-loxP組換えによりNMDA受容体異常活性化するGEMAマウスを活用し、大脳基底核回路の間接路のNMDA受容体が活性化したGEMA,D2R-iCreマウスを作製し、運動機能・学習記憶機能を解析し、並びに線条体出力核の神経活動を解析した。 (4)D2Rの二つの分子種、D2R Long型(D2RL)とD2R Short型(D2RS)の機能を詳細に解析するため、Cre-loxP組換え依存的にD2RS欠損を惹起するノックインマウスの作製を進め、neo遺伝子の除去とCre発現マウスとの交配で完成する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) Arc-dVenus, D1RKD複合マウスを用いた神経活動の履歴の包括的観察により、皮質領域における特徴的な神経活動の検出に成功した。大脳基底核や視床領域における神経活動の観察のために更なる透明化プロトコールの開発に取り組んだ。 D1RKDマウスおよびD1R阻害剤を投与したマウスで走行能の低下が観察され、DAが急性期にも歩行・走行に影響を与えることを見出した。このことは、運動遂行時において、 特に、走行のスピード低下が認められたことから、DAは運動の強度を制御している可能性が考えられた。 (2) (a)Drd2発現依存的にtTAをタンデムに複数個ノックインしたDrd2-multi-tTAマウスの作製を進めるとともに、(b)Cre-loxP組換えにてtTAを発現するマウスとD2R-iCreマウスを掛合せ、D2R発現依存的にtTA高発現するマウスの作製も進めている。 (3) 大脳基底核回路の間接路のNMDA受容体が活性化したGEMA,D2R-iCreマウスの神経活動の解析を行なった。DA作動性神経細胞の主な投射先は大脳基底核の入力部である線条体であるが、D2Rは線条体の間接路に発現するので、その投射先である淡蒼球外節から神経活動の記録を行い、自発活動と大脳皮質運動野の電気刺激に対する応答様式を調べた。 GEMA,D2R-iCreマウスの淡蒼球外節神経の自発発火頻度は約50 Hzで、野生型マウスと異ならなかった。一方、大脳皮質運動野の電気刺激に対する応答は、野生型マウスでは早い興奮-抑制-遅い興奮の3相性の応答が観察されるが、GEMA,D2R-iCreマウスでは3相性の応答うち抑制と遅い興奮が増強されていることがわかった。 (4) Cre-loxP組換え依存的にD2RS欠損を惹起するノックインマウスの作製は、neo遺伝子の除去とCre発現マウスとの交配を行う段階である。
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今後の研究の推進方策 |
(1)D1Rを介するDA伝達が大脳皮質回路内の神経活動を増加させ嫌悪記憶形成の促進の関連を検討するため、c-fos-GFP, D1RKD複合マウスを作製し、学習記憶において活性化する神経細胞の解析を全脳レベルで行う。新規プロトコールによりc-fos EGFPマウスを用いた全脳神経活動の評価系の構築を目指す。D1RKDマウスのD1R欠損状態のDAおよび代謝物の変化、遺伝子発現の変化を解析し、DA情報伝達の変化を解析する。また、磁気共鳴イメージングにより、D1R欠損の状態の画像的解析を行う。 (2)上述の通り、(a)Drd2-multi-tTAマウス作製を進めるとともに、(b)Cre-loxP組換えによりtTAを発現するマウス、D2R-iCreマウスおよびtetオペレーターD2Rマウスを掛合せ、D2RKDマウスの完成を目指す。 (3)GEMA,D2R-iCreマウス淡蒼球外節における皮質由来の早い興奮は大脳皮質-視床下核-淡蒼球外節路を、抑制は大脳皮質-線条体-淡蒼球外節路を、遅い興奮は大脳皮質-線条体-淡蒼球外節-視床下核-淡蒼球外節路を介して伝達されることから、GEMAマウスでは大脳皮質から線条体間接路ニューロンを介して淡蒼球外節に到る情報伝達が増強されていることが示唆された。線条体の間接路ニューロンはD2Rを発現するが、GEMA,D2R-iCreマウスではD2R 発現ニューロンのNMDA受容体における Mg2+ ブロック機構が機能しないため、間接路ニューロンが大脳皮質の電気刺激に対して過剰な興奮を生じた結果、抑制と遅い興奮が増強したと考えられる。この成果の発表を目指す。 (4)Creドライバー依存的にD2RS欠損を惹起するマウスの作製に関して、得られたノックインマウスとCreドライバーマウスとを交配させ、当該のD2RS遺伝子の欠損を引き起こした個体を作出して解析に供する。
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