研究実績の概要 |
本課題は多くの精神疾患でみられる認知行動障害の神経基盤の解明を目的としている。大脳皮質内側前頭前野-側坐核-視床のループ回路が認知行動制御に重要である。我々はこのループ回路の制御異常が様々な精神疾患の認知行動障害につながっていると仮説を立てた(Macpherson & Hikida, Psychiatry and Clinical Neurosciences, 73, 289-301, 2019)。マウスを用いた我々の研究成果から、側坐核の直接路遮断を行うと報酬行動障害が、間接路遮断を行うと忌避行動障害と、異なる認知行動障害が生じる。しかしながら、側坐核の直接路と間接路がそれぞれ大脳皮質内側前頭前野-側坐核-視床のループ回路をどのように制御しているか、特にその分子機構は不明であった。そこで、可逆的神経伝達遮断法を用いて側坐核の直接路あるいは間接路のそれぞれの神経伝達を特異的に遮断し、大脳皮質内側前頭前野のRNAシークエンスにより遺伝子発現への影響を調べた。直接路遮断と間接路遮断により発現量が変化した遺伝子を同定しパスウエイ解析を行った。大脳皮質内側前頭前野において、直接路遮断により発現量が減少した遺伝子群と間接路遮断によりで発現量が増加した遺伝子群に多くの精神神経疾患関連遺伝子が含まれていた。これらの変化遺伝子が大脳皮質内側前頭前野のどの細胞群に属するかを、細胞特異的遺伝子セットを用いてGene Set Enrichment Analysisにて解析した。5b層と6層の錐体細胞に特異的な遺伝子群は直接路遮断と間接路遮断の両方で発現量が減少したのに対して、5a層の錐体細胞に特異的な遺伝子群は直接路遮断で発現量が増加し、間接路遮断で発現量が減少した。これらの結果から側坐核の直接路と間接路が回路特異的に大脳皮質内側前頭前野の遺伝子発現を制御していることが明らかになった。
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