本課題は多くの精神疾患でみられる認知行動障害の神経基盤の解明を目的とした。そこで複数の精神疾患モデルマウスの認知行動障害を解析した。まず、精神疾患との関与が示唆されているKPNA1遺伝子を遺伝要因として、Kpna1ノックアウトマウスの行動解析を行った。Kpna1ノックアウトマウスは新規物体認識試験での認知障害を示した。さらにKpna1ノックアウトマウスに生後5週齢から8週齢にかけての社会的孤立ストレスを加えることによって、抑制性回避試験での忌避行動の障害とプレパルスインヒビション試験における感覚運動ゲーティング障害を呈した。同様にDISC1変異マウスにおいても、社会的孤立ストレスや高スクロースストレスの付加により、プレパルスインヒビション試験における感覚運動ゲーティング障害を示した。これらから、精神疾患で見られる認知行動障害における遺伝-環境相互作用が明らかとなった。これらの認知行動には大脳皮質ー大脳基底核神経回路が深く関わっていることが知られている。その神経回路機構を明らかにするために、認知行動中のマウスにおいて、大脳基底核の中で認知行動に関連する神経核である側坐核の主要細胞である直接路細胞と間接路細胞のそれぞれに特異的に神経活動をカルシウムイメージングにより可視化するシステムを確立した。今後、本実験システムを用いて、精神疾患モデルマウスで見られる認知行動障害につながる大脳基底核神経回路病態が明らかになることが期待される。
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