研究課題/領域番号 |
18H02545
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研究機関 | 福島県立医科大学 |
研究代表者 |
小林 和人 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (90211903)
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研究分担者 |
西澤 佳代 福島県立医科大学, 医学部, 助教 (30644108)
瀬戸川 将 福島県立医科大学, 医学部, 博士研究員 (30760508)
加藤 成樹 福島県立医科大学, 医学部, 准教授 (90443879)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 経路選択的操作 / 細胞標的法 / 化学遺伝学 / 皮質線条体路 / オペラント学習 |
研究実績の概要 |
環境変化に対する適応は、脳の持つ本質的な役割であり、この適応行動の基盤となる神経ネットワークの仕組みの解明は、神経科学領域において克服すべき重要な課題である。我々の研究グループは、独自の神経回路操作技術を開発し、大脳皮質―基底核―視床を連関する神経回路を介して行動の制御や切り替えに関わる細胞種や神経路の役割を明らかにしてきた。大脳皮質は、機能の異なる多くの領野から構成され、それぞれの領野から線条体の異なる領域へ投射するばかりでなく、個々の領野からの皮質線条体投射は2種類の異なる入力様式を示す。本研究課題では、特に、運動野として一次運動野(M1)と二次運動野(M2)に由来する経路、および、感覚野として視覚野と聴覚野に由来する経路に着目して行動制御におけるそれぞれの神経路の機能の解明に取り組む。昨年度、M1/M2 線条体経路の機能を化学遺伝学的手法により解析するために、M1 経路特異的にhM4Di受容体を用いた経路の機能抑制を行ったが、習慣行動形成に顕著な影響を及ぼさなかった。代謝型受容体の機能は繰り返し投与による脱感作する可能性があり、本年度はイオン透過型チャネルGluCl受容体を用いた化学遺伝学的抑制を行ったが、イベルメクチン投与に対しても習慣行動形成に顕著な変化は認められなかった。本行動は、薬理学的な一過性の抑制に対して行動変化を補償する機構の存在する可能性が示唆された。また、M2経路特異的な除去実験の再現性を確認した結果、本経路は目標達成型行動のおよび習慣行動の形成に関与しないことが示唆された。これについても化学遺伝学的抑制実験により確認を行った。小動物PETの解析から聴覚弁別学習の獲得に後部線条体が関与することを見出していたが、多電極記録法によりこの領域の神経活動の記録を行った。現在、活動パターンの解析を行っており、皮質入力活動との関係を考察する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、種々の皮質線条体路のうち、特に、運動野として一次運動野(M1)と二次運動野(M2)に由来する経路、および、感覚野として視覚野と聴覚野に由来する経路に着目して行動制御におけるそれぞれの神経路の機能の解明に取り組む。経路選択的な細胞標的法によりM1 線条体路は習慣行動の形成に重要な役割を持つことを見出しており、化学遺伝学による抑制実験によりこのことを確認する計画であったが、hMDi代謝型受容体を用いた抑制実験およびGluClイオン透過型受容体を用いた抑制実験の両方の技術によっても、習慣行動の形成に変化が認められなかった。M1ニューロンはスライス実験でリガンド依存性に抑制されることを確認していることから、本ニューロンの抑制による習慣行動形成は何らかの機構により補償されていることが示唆された。また、以前に、M2経路の除去により、目標達成型行動および動機付け行動が障害されることを報告したが、複数の確認実験により、M2経路除去は目標達成型行動には影響しないことを明らかにした。この結果は、化学遺伝学抑制によっても確認することができた。以前の実験結果との相違は、脳外科手術による影響など実験条件の差による理由が推定される。M2が目標達成型行動に必要なことが知られているが、これはM2皮質線条体路を介するものではなく、他の経路によって媒介される行動であることが推察された。我々は、小動物用PETを用いた解析から、聴覚弁別課題の形成後期かかわる後部線条体を見出したが、この線条体領域の神経活動の記録を行った。現在、活動パターンの解析中であり、この結果を受けて皮質線条体路の活動との関係を考察する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、経路除去技術によってM1 線条体経路が習慣行動形成に重要な役割を担うことが明らかとなった。皮質線条体系には、intertelenchepharic (IT)タイプとpyramidal tract (PT)タイプの異なる投射様式を持つニューロンが存在する。次年度は、この両者のタイプを選択的に除去して、それぞれのタイプのニューロンの習慣行動形成における役割を解析する。PTタイプのためには、脳幹部よりNeuRetベクターを導入し、同側の皮質にイムノトキシンを投与し、PTの選択的除去を誘導する。ITタイプにはこのニューロンに選択的にCreを発現する遺伝子改変マウスを利用し、AAVベクターとイムノトキシンを皮質に注入して、ITタイプの選択的除去を誘導する。両者の習慣行動形成への影響を解析する。聴覚弁別における後部線条体領域について、これまで記録したデータを解析し、学習過程での神経活動パターンの変化を検討する。後部線条体の役割を明確にした後に、この線条体に投射する種々の皮質線条体路の機能解析実験に取り組む計画である。
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