研究課題/領域番号 |
18H02546
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
小早川 令子 関西医科大学, 医学部, 教授 (40372411)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | チアゾリン類恐怖臭 / 先天的恐怖 / 生命保護作用 |
研究実績の概要 |
先天的恐怖情動は危機状態での生存確率を上昇させる行動と生理応答を統合誘導する脳の能力として進化したと考えられる。しかし、モデル動物に効率的に先天的恐怖情動を誘発する技術が存在しないため、潜在的な恐怖情動性の生命保護作用の実態は未解明であった。本研究では、強力な先天的な恐怖行動を誘発する人工匂い分子としてチアゾリン類恐怖臭(Thiazoline-related fear odors: tFOs)を開発することでこの技術的な問題を克服した。その結果、tFOが誘導する強力な先天的恐怖刺激は低体温、低代謝、低酸素抵抗性、免疫増強、抗炎症、虚血再灌流障害への抵抗性などの多様な生命保護作用を誘導することが明らかになった。具体的には、tFO刺激は、致死的な低酸素環境での長時間の生存を可能にしたり、致死的な敗血症モデルでの死亡率を大幅に低下させたりする活性を持つことを解明した。さらに、本研究ではtFOによる生命保護作用の誘導を担う神経経路の解析を行った。その結果、tFOは細胞に直接作用するのではなく、感覚受容体の活性化を介して、脳の中枢部に存在する新たに発見された生命保護経路に危機情報が伝達されることによって、多様な生命保護能力が統合誘導されることが明らかになった。本研究以前にも、匂い分子が様々な生理応答を誘導することは知られており、アロマテラピーとして医療や健康増進技術として利用されてきた。しかし、匂い分子が正に「生死を決する」程の強力な生命保護作用を持つという発見は予想されておらず、本研究により匂い分子の医療応用に関する認識は一変する可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
tFO刺激による生命保護作用を誘導する脳の中枢経路はこれまで未解明であったが、本研究により解明された。tFO刺激と同様の冬眠様状態は硫化水素や2デオキシグルコースによっても誘発できる。硫化水素はミトコンドリアの電子伝達系を阻害し、2デオキシグルコースは解糖系を阻害することで、基礎代謝を抑制し冬眠様状態を誘発する。これら既知の薬剤とは異なり、tFO刺激は細胞に直接作用するのではなく、感覚神経を介して脳の生命保護中枢の機能である内在的な冬眠様状態の誘導能力を作動させることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
tFO刺激が脳の潜在的な生命保護能力を誘導することが明らかになった。今後は、潜在的な生命保護能力の全貌を解明すると共に、異なる種類の生命保護作用を分離して誘導する感覚刺激に関する研究を実施する。この研究により、様々な病態を治療するために最適な生命保護能力を誘導する感覚刺激が開発できる。
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