研究実績の概要 |
異種の脂肪族アルデヒドを直接的かつ触媒的に C-C 結合で連結する不斉交差アルドール反応は、キラルな 1,3-ジオールを不斉構築する最も有望な方法の一つである。しかし、現在の有機化学では反応性の類似した異なるアルデヒドをエノール成分(アルドールドナー)とカルボニル成分(アルドールアクセプター)に識別できず、所望の交差体の他にホモアルドール体や望まない交差体が副生し複雑な混合物を与える。本研究は、この交差アルドール反応を触媒によりアルデヒドのわずかな反応性の差を見分けることで、精密に制御しようとするものである。 昨年度までに、軸性不斉を持つアニリン性酸塩基触媒存在下、カルボニル基の alpha-位に酸素を持つアルデヒドを含む交差アルドール反応を検討してきた。その結果、alpha-位に酸素を持つアルデヒドがアルドールアクセプターとなった交差アルドール体が、syn-体を主ジアステレオマーとして、高エナンチオ選択的に得られることを明らかにした。この反応では、2種類のアルデヒド基質を等量用いた場合でも、交差アルドール付加体が主に得られる。 この結果を受け、今年度は、ホモアルドール反応等の副反応が避けられず制御困難な反応として知られる、脂肪族アルデヒドとアセトアルデヒドとの分子間交差アルドール反応を検討した。その結果、3,5 位にトリフルオロメチル基が置換したフェニル基を、その 3,3´ 位に持つアニリン性酸塩基触媒を用いると、71% 収率、70% ee で alpha-位に酸素を持つアルデヒドがアクセプターとなった交差アルドール体が得られることがわかった。この反応における立体選択性について計算化学により考察したところ、アクセプターとなるアルデヒド基を活性化する CH-O 水素結合が存在し、C-C 結合形成段階の遷移状態の安定化に寄与していることを明らかにした。
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