近年,様々な多工程ワンポット不斉合成法が開発されてきたが,複数の触媒を用いる場合には,触媒の共存性,各工程の反応制御などが困難であった。一方,天然の酵素を精密有機合成に活用する研究が盛んに行われているが,適用できる反応の種類や基質に制限がある。このような背景下,我々は最近,メソポーラスシリカの細孔内表面にオキソバナジウムを固定した触媒VMPS4を開発した。細孔によって加水分解酵素とオキソバナジウムは隔離され、これら2種類の触媒の共存性を格段に高めることができた。その結果、両触媒を併用する動的速度論的光学分割 (DKR) を効率的に実施する方法を開発した。そこで,本課題研究では,我々の方法論の拡張と応用展開を行い,実践性向上を図ることを目的とした。
1)光学的に純粋な第三級アルコールは医薬品等の部分構造として,また,合成中間原料として重要であるが,酵素触媒DKRを第三級アルコールに適用した例は無い。申請者は,2019年度にVMPS4とリパーゼを併用し,第三級アルコールのDKRに初めて成功した。本年度は,反応条件の改善を行い、光学的に純粋な第三級アルコールのエステルを77%収率で得ることが出来た。 2)市販の固定化リパーゼとV-MPS4を混合してカラムリアクターに充填し,ラセミ体第二級アルコールの連続フローDKRに成功した。 3)ラセミ化触媒として利用していたV-MPS4が、ヒドロキシカルバゾール類と求核性芳香族化合物との脱水素型クロスカップリング反応に適していることを見出した。本法によって、ラセミ体の非対称型ビアリール化合物が高い化学選択性と位置選択性で得られた。次に、本法で得たビアリールを,リパーゼ触媒速度論的光学分割によって両鏡像異性体に高光学純度で分離することができた。さらに,脱水素型クロスカップリング反応とリパーゼ触媒KRをワンポットで連続させることにも成功した。
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