研究課題
本研究課題では、IDO/TDO二重阻害に基づく新たながん免疫治療薬開発のための創薬基盤の構築を目的としている。本年度も、IDO/TDO二重阻害に係わる構造活性相関の把握と活性増強を目的として、誘導体のデザインと合成を進めた。具体的にはフェニル基への置換基効果、チオウレア窒素原子へのアルキル基やアリール基導入またはホルムアルデヒドを炭素源として様々なアミンとのトリアジン環化体合成を試みた。またチオウレア基の生物学的等価体としてアミド基に変換した誘導体を合成、評価した。これらと並行して、IDO/TDOの立体構造に基づく新たな阻害化合物のデザインとして、ドッキングソフトMOEを活用したファーマコフォアの同定を試みた。その結果、チオウレアタイプ、トリアジンタイプ、アミドタイプの構造的に多様性のある高活性なIDO/TDO二重阻害化合物を複数見出した。これらいずれのタイプでその酵素阻害活性はリード化合物に比べIDO/TDO共に10倍以上(酵素阻害IC50値ナノモルレベルに)向上した。またアミドタイプの中から、これまで報告例の極めて少ないTDO選択的な阻害化合物を発見した。インシリコ解析では、誘導体のチオウレア基はIDOまたはTDOのヘム側鎖プロピオン酸及びその近傍にあるアミノ酸残基と水素結合を形成し、ヘム上の疎水性空間に誘導体のフェニル基が相互作用していること考えられる。更にIDOに関しては、フェニル基へ導入したハロゲン原子が、IDO疎水性空間に存在するシステイン残基の硫黄原子とハロゲン結合していることが示唆され、このことが酵素阻害活性向上に寄与していることも考察できる。腫瘍微小環境を反映したin vitro評価系については、条件培地を用いた手法によってがん細胞からのキヌレニン産生によるNK細胞の抑制と二重阻害剤による抑制解除作用を検証した。
2: おおむね順調に進展している
イソチオウレア誘導体をリード化合物として、フェニル基への置換基効果、チオウレア窒素原子へのアルキル基やアリール基導入またはホルムアルデヒドを炭素源として様々なアミンとのトリアジン環化体、またチオウレア基の生物学的等価体としてアミド基に変換した誘導体を合成し酵素阻害活性を評価した。IDOまたはTDOの立体構造に基づく新たな阻害化合物のデザインとして、ドッキングソフトMOEを活用したファーマコフォアの同定と化合物デザインを行うことによって、チオウレアタイプ、トリアジンタイプ、アミドタイプの構造的に多様性のある高活性なIDO/TDO二重阻害化合物を複数見出すことに成功した。これら誘導体の酵素阻害活性はリード化合物に比べIDO/TDO共に10倍以上向上し、いずれも細胞系で強力にキヌレニン産生を阻害した。またアミドタイプの中から、これまで報告例の極めて少ないTDO選択的な阻害化合物を見出すことともできた。インシリコ解析によって、これら誘導体の二重阻害における活性向上を裏付けることができており、これらの情報は新規なIDO/TDO二重阻害化合物デザインのための基盤として有用である。腫瘍微小環境を反映したin vitro評価系については、TDOを恒常的に発現しているA172細胞を用いてIDOとTDOの両酵素が発現している状況を再構築することに成功し、合成した二重阻害化合物の優位性を検証した。さらに条件培地を用いた実験系によって、がん細胞から産生されるキヌレニンによるNK細胞の抑制を確認し、二重阻害剤によってNK細胞の抑制が解除されることを明らかとした。一部の誘導体についてはCT26移植マウスにおける免疫チェックポイント阻害薬との併用効果を確認している。さらに遺伝子導入細胞を用いた評価系についても準備中であり、in vivoでの二重阻害に基づく免疫抑制解除薬としての有用性の検証を目指す。
継続してインシリコによる誘導体のデザインと合成による構造最適化を進めつつ、標的分子へのレジデンスタイムの視点から共有結合型の誘導体の可能性についても検討予定。これまでのSAR情報はMOEを用いたドッキングモデリングの最適化にも活用すると同時に、バーチャルチャルスクリーニングへの応用も試みる。高活性なチオウレア誘導体については、酵素阻害のカイネティクス解析やヘムとの相互作用に関する生化学的な解析を加えることによって阻害様式をクリアーにする。並行して化合物-タンパク質複合体のX線結晶構造解析も継続する。培養細胞系においては、NK細胞の抑制解除作用に関する作用機序の詳細を検討し、さらにヘム合成を止めることによる酵素のアポ体への作用についても解析予定である。現在、CT26移植マウスを用いて既存化学療法および免疫チェックポイント阻害薬との併用効果を検討中であり、一部の誘導体での抗腫瘍効果が得られていることから、構造タイプ別の化合物の経口投与後血中濃度測定をはじめとしたPK解析などの薬物動態試験を検討予定。本IDO/TDO二重阻害化合物については、低分子創薬の利点を活かし、まずは経口剤としての検討を進めている、経口吸収性や血中安定性が低い誘導体の場合には、別の投与経路を探索する。その際は化合物の物性(水溶性の高いチオウレアタイプ、脂溶性の高いトリアジン、アミドタイプ)を活かしたリポソーム化などにより積極的にマクロファージに取り込ませることもひとつのオプションとする。これらの手法によりIDO/TDO二重阻害化合物の効果が最大限に発揮できる条件を設定する。また樹立したIDO/TDOを恒常的発現株のマウスへの移植と薬剤による増殖抑制効果を評価し、さらに免疫パラメータの解析を行うことによって薬効の裏付けとなるデータを取得予定である。
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