研究課題/領域番号 |
18H02563
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
川崎 ナナ 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 教授 (20186167)
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研究分担者 |
太田 悠葵 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 特任助教 (10583453)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | iPS細胞 / 再生治療 / 糖鎖 / 分化マーカー / 質量分析 |
研究実績の概要 |
iPSC由来神経細胞は、創薬研究や再生医療等への応用が期待されている。iPS創薬の実用化と、再生医療等製品の有効性・安全性確保には、神経分化細胞の品質評価・管理手法の開発は必須である。現在のところ、神経分化は形態学的手法や電気生理学的手法等で評価・管理されているが、特異性や再現性などに課題があり、分子マーカーの開発が求められている。なかでも膜タンパク質は検出が容易で、細胞選別に利用できる可能性があり、神経分化マーカーとしての有用性は極めて高い。神経幹細胞、前駆細胞、神経分化細胞の構造や機能と関連性の高い膜タンパク質を複数特定することができれば、それらを組み合わせた品質管理法の開発につなげられる可能性が高い。膜タンパク質の多くは糖タンパク質である。糖鎖部分は接着や神経分化と密接に関係していることが知られている。したがって、iPS細胞とiPS由来神経細胞から糖ペプチドを回収し、相対定量を行うことで、神経分化マーカーを見出すことができるに違いない。 しかし、いくつかの課題もある。第一に、iPS細胞から分化させて得られた細胞が、神経幹細胞、神経前駆細胞、および各種神経細胞のどれに相当するかを、定義付けすることは困難であることである。第二に、糖ペプチドは不均一性が高く、イオン化効率が低いため、通常入手可能なiPS由来神経細胞の数では、LC/MS/MSによる神経特異的タンパク質の網羅的解析が困難である。 そこで、本研究では、iPSCを既存の方法で神経細胞に分化させ、一定期間ごとにプロテオミクスを行い、その細胞がどの分化過程や神経細胞に分類されるかを確認する。また、細胞グライコミクスの微量化を検討する。これにより、神経分化過程で特異的に発現する膜タンパク質を特定する
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2018年度は、iPS細胞を神経幹細胞 (NSC)、神経前駆細胞 (NPC)、ドパミン作動性神経様細胞 (DA) に分化させ、免疫学的評価により、一般的に幹細胞、前駆細胞、ドパミン作動性神経細胞に分類される細胞が持つマーカータンパク質を発現していることを確認した。さらに、各細胞から膜タンパク質を抽出し、還元アルキル化とトリプシン消化を行い、LC/MS/MSによるタンパク質の網羅的解析を行った。それにより、それぞれの細胞に特徴的なタンパク質を特定した。また、細胞グライコプロテオミクスの微量化のための試料調製の最適化を行った。 2019年度は、各細胞の溶解液から得たトリプシン消化物から糖ペプチドを回収し、グライコプロテオミクスを行った。すなわち、トリプシン消化物中の糖ペプチドを90%アセトニトリル (ACN)溶液に懸濁したセルロース微結晶に吸着させ、夾雑ペプチド除去後、30%ACNで回収した。一部をPeptide-N-Glycosidase Fで脱糖鎖ペプチドとし、LC/MS/MSとデータベース検索によるタンパク質同定を行った。同定されたペプチドのうち、N型糖鎖コンセンサス配列 (N-X(≠P)-S/T)を持ち、Asn残基が脱アミド化されたペプチドは、全体の約30%であった。また、iPSCで糖ペプチド1783種類 (糖タンパク質766個)、同様に、NSCで1831種類 (792個)、NPCで1595種類 (699個)、DAで1854種類 (768個)が同定された。Gene Ontology解析により、同定された全1201個の糖タンパク質のうち899個が膜タンパク質と示唆された。また、DAでは細胞接着に加え、シナプス形成や伝達に関わる膜糖タンパク質が同定されていた。 このように、神経分化細胞の調製、プロテオミクスによる分化確認、iPS細胞のグライコプロテオミクスを実施した。当初の研究計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は定量グライコプロテオミクスを行う。すでにiPS細胞、NSC、NPC、DA(各細胞n=4~8)からタンパク質を抽出しており、それぞれから糖ペプチドを回収し、LC/MS/MSによるノンラベル相対定量を行う。糖ペプチドは2つに分け、一方はPNGaseF処置により脱糖鎖ペプチドとし、他方はそのままLC/MS/MSを行う。脱糖鎖ペプチド間のピーク面積を比較し、差が認められたタンパク質について、GO解析やKEGG パスウェイ解析を行い、神経分化に関係のあるタンパク質を絞り込む。その絞り込んだタンパク質の糖ペプチドMS/MSデータから糖鎖構造を推定する。これにより、神経分化細胞のマーカー候補タンパク質の開発につなげる。
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