研究課題
本研究は、原因遺伝子に変異を有しない孤発性アルツハイマー病(AD)の発症機構を、原因タンパク質APPの神経細胞内輸送機構と、それに伴う代謝変化に着目して解明することを目的とする。ADの原因遺伝子の一つは、発症因子アミロイドβ(Aβ)の前駆体APPである。APPとその切断酵素群は全て膜タンパク質であり、神経細胞内の膜小胞輸送系の変化と神経毒性を示すAβ産生は密接に関わっている事が明らかになっている。APPはキネシン-1のカーゴ受容体として神経の軸索順行輸送で重要な役割を果たし、輸送の停滞がAβ生成の増加を引き起こす。一方、キネシン-1のカーゴ受容体として、申請者はAlcadein α (Alcα)を同定して来た。APPとAlcαは、それぞれキネシン-1による独自の輸送を受けている。これにより、APPとAlcα輸送小胞は、独自の積荷を搭載している事が示唆され、それぞれの小胞に含まれる積荷の同定と機能解析に取り組んでいる。APPの輸送制御の解析とAPPが輸送する分子の同定は、孤発性ADの発症機構を理解する上で重要であり、新たな創薬標的の開発につながる。APPおよびAlcαによる輸送小胞は、細胞骨格、受容体、細胞接着、軸索ガイダンス等に関わる因子を含んでおり、これらの輸送変化と神経変性との関連性に着目した解析を進めている。これまで、APPはアダプター分子JIP1を介してキネシン-1の軽鎖(KLC1)に接続し、Alcαよりもより高速で軸索内を輸送されることを見いだしてきた。しかし、JIP1-KOマウスの神経細胞でもAPPはAlcαと同等の速度でキネシン-1による輸送を受け、そのメカニズムは明らかでは無かった。今回、この仕組みが明らかになり、詳細な分子機構の解明を進めている。
2: おおむね順調に進展している
APP小胞が輸送するタンパク質の同定は、計画通りに進んでいる。アダプタータンパク質JIP1が無い状態でのキネシン-1による輸送の仕組みが新たに明らかになり、この点は計画以上に進展した。JIP1依存的なキネシン-1軽鎖(KLC)への結合は、KLCのリン酸化によって制御されていることを報告してきた。これに基づいて剖検脳やサル加齢脳のリン酸化状態を解析する研究を予定していたが、リン酸化抗体の力価が弱く、解析条件の検討を行っている段階である。
APPは神経毒性を示すAβの前駆体であり、APPの細胞内輸送とAβ生成は密接に関わっている。しかしAPPが輸送される仕組みと輸送における働きは未解明な点が多く、ADを理解する上でAPPの機能と代謝機構の解明は必須である。申請者は、これまでにAPPがJIP1を介してキネシン-1と接続してより高速な輸送を受ける事を見いだしてきたが、この輸送を制御している仕組みはKLCのリン酸化であることを報告してきた。しかし、JIP1欠失神経でも、キネシン-1によるAPPの輸送は行われる。この輸送はJIP1が介在する輸送よりも遅く、分子機構は明らかでは無かった。2018年度の解析から、JIP1非依存的なAPP輸送の仕組みが明らかになり、2019年度はこの解析を主に進めることで、どちらの輸送方式が加齢やADで障害を受けやすいかを解明する研究に発展できる。
すべて 2019 2018 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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