研究課題
細胞は内外環境ストレスの種類や強さに応じて、ストレス応答シグナルの活性化のタイミングや持続時間・強度といったバランスを厳密に制御し、適切なストレス応答を誘導して生体恒常性を維持している。その破綻が癌・免疫疾患等の様々な疾患の発症原因となる。最近の我々の研究から、このストレス応答シグナルのバランスが、シグナル分子に対する、ユビキチン化・メチル化などの多様な翻訳後修飾のクロストークによって厳密に制御されることが分かってきた。本研究では、細胞死や炎症などの重要なストレス応答の誘導に不可欠なシグナル分子の活性化バランスが、翻訳後修飾のクロストークを介して制御・微調整されていることを検証し、その破綻による様々な疾患発症の分子機構の解明を目的とした。本年度は、ASK1やTAK1等の代表的なストレス応答キナーゼや、ストレスセンサー分子、シグナル分子を基に、ユビキチン化等の翻訳後修飾がどのようにしてストレス応答シグナルを制御するのか、その分子レベルでの制御機構の解明を進めてきた。その成果として、例えばASK1については、多様なユビキチン化酵素によって活性制御が行われ、そのユビキチン化酵素もストレスに応じて、さらに上流のユビキチン化酵素によってユビキチン化分解を受けるなど、非常に厳密に活性化の調節が行われていることが分かってきた。その他の幾つかのキナーゼについても、キナーゼ自身がストレスセンサー分子として働く場合や、ユビキチン化やSUMO化等の翻訳後修飾のクロストークが協調的に活性化制御を行う仕組み、細胞死や炎症の誘導にとってユビキチン化等の翻訳後修飾やその修飾酵素を介したシグナル制御の重要性およびその仕組みの普遍性などについて見出すことができた。このような成果を基にして、ストレス応答シグナルの新たな分子制御の仕組みとその生理的意義の解明を進めたい。
2: おおむね順調に進展している
細胞死や炎症に対するストレス応答シグナル分子の活性化が、翻訳後修飾のクロストークを介して制御・微調整されている例を幾つか見出し、検証することができた。1) まずASK1については、ユビキチン化酵素Roquin-2と脱ユビキチン化酵素USP9XによるASK1活性化への拮抗作用とは別に、他のユビキチン化酵素TRIM48を介した、ASK1阻害分子であるメチル化酵素PRMT1のユビキチン化分解によるASK1活性化とそれに伴う癌抑制作用を見出し、さらにそのTRIM48に対する新規ユビキチン化酵素を同定して、TRIM48の発現制御メカニズムを明らかにできた。この新規ユビキチン化酵素については癌との深い関連性が分かっており、創薬標的としての可能性を追求したい。2) TAK1キナーゼについても、ユビキチン化酵素Roquin-2による分解制御が重要であること、またTAK1自身が酸化ストレスに応答するセンサー分子である可能性について追求できた。3) エネルギー代謝の変化に応答するストレス応答キナーゼSTK11は、複数の翻訳後修飾と修飾酵素によって活性制御が行われることが判明した。その修飾酵素の基質や幾つかの修飾サイトも同定でき、それぞれの翻訳後修飾の連携・協調がSTK11シグナルの微調整にとって必須であることが明らかとなった。4) 癌や神経変性疾患と深く関わる新たな細胞死としてのパータナトスが活性酸素産生に依存して誘導され、その活性酸素センサー分子として多機能分子p62を見出した。このp62の酸化ストレスによる構造変化が、ポリユビキチン化されたタンパク質の核内凝集体を形成させ、この凝集体がPARP1 という酵素による翻訳後修飾の一つであるポリADPリボシル化を促進して、パータナトスが誘導される仕組みを解明し、既に論文掲載した。
次年度は、さらに本年度の成果を基にして、ストレス応答シグナルの新たな分子制御の仕組みとその生理的意義を明らかにする。複数のシグナル分子を並行して解析していく予定だが、幾つかの主要なシグナル分子の具体的な解析方法の例を以下に挙げる。1) ASK1の活性化因子としてのユビキチン化酵素TRIM48については、今回同定した、TRIM48に対する新規ユビキチン化酵素の生理的意義の解明を目的に、ASK1活性化への影響やTRIM48ファミリー分子に対するユビキチン化分解の効果を検討し、疾患との関連も含めて分子機能解析を進めたい。2) TAK1の酸化ストレス応答センサー分子としての機能を検証するため、TAK1の酸化修飾サイトの同定やTAK1の発現制御の仕組み、さらに酸化ストレスに応答したTAK1によるストレス応答シグナルの活性化がどのような作用を誘導するのか、その生理的意義についても追求する。3) STK11あるいはSTK11制御因子としての修飾酵素について、複数の翻訳後修飾サイトを同定できた。それらの修飾サイトの欠損変異体を導入した細胞や修飾酵素自体のノックアウト細胞を用いて、修飾および修飾酵素の生理的意義を分子レベルで明らかにする。4) p62の酸化ストレスによる構造変化が、ポリユビキチン化タンパク質との核内凝集体形成を促進させる仕組み、あるいは、この凝集体がPARP1 によるポリADPリボシル化を促進してパータナトスを誘導する分子機構を詳細に解析する。5) 我々は免疫賦活化刺激によって誘導され、免疫シグナルを微調整する新たなユビキチン化酵素を見出している。このユビキチン化酵素の基質となるシグナル分子の同定などを行い、ユビキチン化酵素を介した免疫シグナル制御のメカニズムと実際の炎症・免疫調節作用について解明する。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (25件) (うち国際学会 4件、 招待講演 4件) 備考 (1件)
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http://www.pharm.tohoku.ac.jp/~eisei/eisei.HP/index.html