自然免疫の分子機構の解明は薬学分野の重要な研究領域のひとつである。自然免疫系は全ての多細胞生物が保有する感染防御機構であり、哺乳動物では獲得免疫の活性化にも関わる。また、自然免疫系の異常はアレルギーや自己免疫疾患の原因にもなるため、創薬の対象としても重視されている。そのため、自然免疫系の分子機構の解明は、薬学分野において極めて重要な研究領域と言える。これまで、タンパク質性分子に着目して数多くの研究がなされ、自然免疫応答の仕組みが解明されてきた。しかしながら、いまだ全貌解明には至っていない。近年、タンパク質のアミノ酸一次配列情報をコードしないRNA(ノンコーディングRNA)が新しい機能性RNA分子として注目されている。本件研究では、核内に存在する長鎖ノンコーディングRNAおよびその分解制御に着目して、サルモネラ感染後の細胞内自然免疫応答の仕組みを調べた。 系統的なサルモネラ変異株を用いた実験から、サルモネラ毒素SsaBが宿主細胞の核内RNA分解を抑制する可能性が見いだされた。また、SsaB毒素が宿主側シグナル伝達経路p38 MAPKを介して核内RNA分解因子MTR4とRRP6を分解していることを示す結果を得た。しかしながら、p38 MAPKの下流に位置し、MTR4とRRP6を分解するプロテアーゼは同定できなかった。プロテアソーム阻害剤によってサルモネラ感染後のMTR4とRRP6の分解は抑制されなかったことから、プロテアソームに依存しない経路でMTR4とRRP6は分解されると予想された。 本研究の結果から、我々は核内lncRNAの分解制御による自然免疫応答の制御という新概念を提唱するに至った。このような新概念提唱は、薬学、免疫学、分子生物学等の発展に大きく貢献すると期待している。
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