研究課題
プロスタグランジンE(PGE)は炎症メディエーターであるが、腫瘍免疫を抑制することも報告されている。近年、がん免疫療法として、免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体)が注目されて、臨床応用される一方で、有効性を示さない場合もあることが課題となっている。我々は、がんの増殖・転移におけるPGEの役割を解析し、PGEが受容体サブタイプEP4を介して腫瘍形成と転移を促すこと、EP4のシグナル遮断により、腫瘍形成と転移が顕著に抑制されることを明らかにしている。最近、COX-2阻害によりPGE系の産生を抑制すると、抗PD-1抗体の抗腫瘍効果を高めることも報告された。そこで、本研究では、がんの増殖と転移に着目し、免疫チェックポイントにおけるPGEのがん免疫抑制作用を明らかとすることを目的としている。固形腫瘍形成においては、がん細胞の増殖のみならず血管新生の制御が重要である。マウス背部に悪性黒色腫B16あるいは乳がん細胞4T1を移入すると、血管新生を伴って、固形腫瘍形成が認められた。このマウスにEP4アンタゴニストを投与すると血管新生が抑制されて固形腫瘍形成が抑制された。抗PD-1抗体では固形腫瘍形成の抑制傾向が観察されたが、EP4アンタゴニストとの併用効果は明瞭でなかった。固形腫瘍組織から切片を作成し、質量分析イメージングにより、PGEの組織上の分布像を得ることに成功した。この成果は、薬剤効果の評価系として活用できることが明らかとなった。がんの骨転移における骨破壊を解析したところ、EP4アンタゴニストは明瞭な骨破壊抑制効果を示したが、抗PD-1抗体は骨吸収抑制作用を示さなかったことから、免疫チェックポイントの制御と骨破壊の制御の異なるメカニズムの併用が期待できると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
2019年度において、免疫チェックポイントにおけるPGEのがん免疫抑制作用とその作用点解明を目指して、マウス固形腫瘍系とマウス骨転移実験系について検討した。さらに、固形腫瘍ならびにがん骨転移局所におけるPGEの分子局在について、質量分析イメージングを用いた解析を実施した。固形腫瘍形成の実験系においては、マウス背部の悪性黒色腫B16あるいは乳がん細胞4T1を移入して、顕著な血管新生を伴う固形腫瘍形成が認められたことから、マウス固形腫瘍の評価系を構築できた。さらに、骨転移系についても骨破壊の指標も含めて評価系として確立した。これらマウス実験系において、EP4アンタゴニストを投与すると、血管新生が顕著に抑制されて固形腫瘍形成が抑制され、骨転移系では、骨破壊を抑制して骨転移を阻止したことから評価系として良好に構築できた。抗PD-1抗体の効果はEP4アンタゴニストに比して微弱であったこと、これらの併用効果は明瞭でなかったことから、メカニズムの相違と補填効果の有無については今後の課題である。固形腫瘍組織から切片を作成し、質量分析イメージングにより、PGEの組織上の分布像を得ることに成功したことは、世界的に初めてのPGE分子分布の成功例であり、上記のEP4アンタゴニストならびに抗PD-1抗体の抗腫瘍効果と相互メカニズムの解明のために活用できることを示した点で重要な成果である。本研究のこれまでの研究進捗は、おおむね順調である。
今後の研究推進方針は、がんの増殖と転移について、PGEに着目して、免疫チェックポイント阻害薬とEP4アンタゴニストの併用効果の有無を明らかとし、さらにメカニズムの解明を進めることである。免疫チェックポイント阻害薬は不応答性を示すことが課題であることから、EP4アンタゴニストとの併用によって、その効果増大と不応答への課題を解決できれば、臨床応用が期待できる。そこで、2020年度は、免疫チェックポイント阻害薬とEP4アンタゴニストの転移抑制併用効果の立証を目的とし、複数のがん細胞、乳がん細胞(4T1)、前立腺がん(PC6, TRAMP)、肺がん細胞(LCC)を用いたマウス全身転移モデルならびに骨転移モデルを用い、抗PD-1抗体とEP4アンタゴニストの転移抑制の併用効果を検討する。さらに、抗PD-1抗体とEP4アンタゴニストのメカニズム解明を目的とし、マクロファージ、間質細胞、Tリンパ球、破骨細胞と各種がん細胞を用い、PD-1発現、PD-L1発現、EP4発現、サイトカイン産生、NKκBへのPD-1とEP4の作用点などを解析する。また、質量分析イメージングを用いる解析を実施することにより、組織内のPGEおよび関連因子の分子分布像を取得し、免疫チェックポイントにおけるPGEの役割を解明する。これら解析により、免疫チェックポイント阻害薬とEP4アンタゴニストのがん転移抑制における併用効果のメカニズムを明らかとする。
すべて 2020 2019 その他
すべて 雑誌論文 (14件) (うち国際共著 6件、 査読あり 14件、 オープンアクセス 9件) 学会発表 (29件) (うち国際学会 2件、 招待講演 7件) 備考 (1件)
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