研究課題/領域番号 |
18H02573
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
中島 美紀 金沢大学, ナノ生命科学研究所, 教授 (70266162)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | RNA編集 / 転写後修飾 / microRNA / 薬物代謝酵素 / シトクロムP450 / 核内受容体 |
研究実績の概要 |
薬物代謝酵素は、医薬品有効成分の血中濃度を規定し、薬効や副作用発症を左右する因子として重要であり、その発現変動要因を解明する研究は、医薬品開発の効率化および医薬品適正使用の観点から社会的ニーズが高い。我々は薬物代謝酵素の発現制御にmicroRNAが重要な役割を担っていることを先駆的に明らかにしてきた。遺伝子発現の転写後調節の重要性が明らかになるにつれ、mRNAとmicroRNAのRNA編集(塩基の修飾による性質変化)の影響を解明する必要性が示唆された。本研究では、肝臓に発現するシトクロムP450 (P450, CYP) などの薬物代謝酵素の発現制御におけるRNA編集の寄与を明らかにし、創薬や薬物治療に役立てるための情報基盤を構築することを目的としている。 本年度は、薬物代謝酵素の誘導に重要な役割を示す核内受容体constitutive androstane receptor (CAR)の発現がRNA編集によって制御されている可能性を検討した。薬物代謝酵素の発現量が正常ヒト肝臓に近いレベルに維持されているヒト肝がん由来HepaRG細胞を用いて、ADAR1をノックダウンしたところ、CAR mRNAとタンパク質発現量の有意な上昇が認められ、それはCARのスプライシング効率の上昇に起因していることを明らかにした。また、ADAR1ノックダウンによるCAR発現増加は、CYP2B6やCYP3A4の誘導能の増加をもたらすこのも明らかにした。以上の研究成果はJ. Pharmacol. Exp. Therに発表した。 さらに、HepaRG細胞におけるADAR1ノックダウンによるmicroRNA発現変化をアレイ解析により網羅的に調べたところ、数倍以上の発現変動を示すmicroRNAはほとんどないことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肝臓に発現する主な薬物代謝酵素であるP450の発現だけでなく、P450の誘導を担う核内受容体もRNA編集によって変動することを明らかにし、国内外での学会で発表し、国際学術雑誌へも発表した。また、RNA編集酵素ADARの発現変化がmicroRNAの発現変化に及ぼす影響についても解析を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
①肝臓におけるADAR発現量の変動が薬物代謝酵素のRNA編集の程度や発現量に及ぼす影響 ヒト肝臓中の主な薬物代謝酵素であるシトクロムP450の各分子種の発現を、RNA編集を担う酵素であるADARが制御していることを明らかにしたことから、引き続き、その他の薬物代謝酵素として、UDP-グルクロン酸転移酵素やアルドケト還元酵素等の発現に及ぼすADARの影響を明らかにする。具体的には、ADARに対するsiRNAを細胞に導入し、各代謝酵素の発現量や機能が変化するかウェスタンブロットおよび酵素活性評価により検討する。発現量や活性の変化が、当該mRNAの塩基置換によるものかダイレクトシークエンス解析を行い、ゲノムDNA配列との比較によりRNA編集の有無を明らかにする。 ②肝臓におけるADAR発現を制御する因子の解明:遺伝子多型解析 ヒト肝臓におけるADAR1発現量には数百倍もの大きな個人差が認められることを明らかにしており、その原因を解明する。ADARには遺伝子多型が認められ、複数の一塩基置換(single nucleotide polymorphism, SNP)が同定されている。がんなどの疾患感受性との関連が示唆されているものの、各遺伝子変異の機能解析は行われていない。アミノ酸置換が起こるものもあるため、遺伝子変異がRNA編集活性にどの程度影響を及ぼすか、ADAR発現系を構築してRNA編集能を評価する。また、ADARの5'-上流領域に遺伝子変異があるかは未だ解析されていない。発現量の個人差解明につながる可能性もあるため、プロモーター領域の遺伝子多型解析を進める。
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