研究課題
本研究では、最新のiPS細胞技術を用いた解析で明らかにした分子メカニズムをマウス個体レベルで実証し、精神疾患の「真の」分子病態を明らかにするとともに、分子病態に基づいた創薬シーズを同定する、トランスレーショナル研究の新しい戦略の確立を目指す。特に、遺伝性変異のような選択圧を受けておらず、発症に大きく寄与すると考えているde novo突然変異や、独自に見いだした統合失調症多発家系患者の患者特異的変異等の、分子病態に直結する変異を解析することを目的としている。本年度は、以下の成果を得た。1)精神疾患への関与が強く示唆される3q29領域欠失を導入した疾患モデルマウスの行動解析を実施し、3q29領域欠失マウスにおいて、prepulse inhibitionの異常や社会性行動の低下といった精神疾患様の表現型を見いだした。また、prepulse inhibitionに異常は抗精神病薬のリスペリドンの投与により回復することを見いだした。2)多くの自閉症患者から変異が同定されているPOGZ変異を導入した疾患モデルマウスの行動実験を推進し、POGZ変異マウスにおいて、社会性行動の低下、固執行動の上昇、ultrasonic vocalizationの異常という自閉症様の表現型を見いだした。また、社会性活動異常がAMPA受容体の阻害により回復することを見いだした。さらに、神経細胞の興奮性を抑えるAMPA型グルタミン酸受容体阻害薬のNBQXやペランパネル(抗てんかん薬)の投与により社会性活動の異常が回復することを見いだした。また、社会性活動時の全脳イメージング解析の予備実験を実施したところ、野生型マウスと比較して大脳皮質のごく限られた領域における神経活動の過剰な活性化を見いだした。
2: おおむね順調に進展している
本年度の目標であった3q29領域欠失導入マウスとPOGZ変異マウスの精神疾患関連の行動薬理学的実験が完了したため。
患者iPS神経細胞のみならず、患者に起きている遺伝子変異をそのまま導入することによって作製したヒト型精神疾患モデルマウスを用いた一貫した融合研究が、分子病態を明らかにする上で重要である。今後、さらに同じ変異をもつiPS細胞と疾患モデルマウスを用いた研究を推進し、疾患の分子病態を明らかにするのみならず、創薬研究のための基礎データ、および疾患の細分類系の確立やそれぞれの分子メカニズムに応じたテーラーメード医療の開発に貢献するデータの提供をめざす。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 5件、 招待講演 4件)
Pharmacology Biochemistry and Behavior
巻: 176 ページ: 1~5
10.1016/j.pbb.2018.11.003
PLOS ONE
巻: 13 ページ: e0196946
10.1371/journal.pone.0196946