研究実績の概要 |
本研究では、最新のiPS細胞技術を用いた解析で明らかにした分子メカニズムをマウス個体レベルで実証し、精神疾患の「真の」分子病態を明らかにするとともに、分子病態に基づいた創薬シーズを同定する、トランスレーショナル研究の新しい戦略の確立を目指す。特に、遺伝性変異のような選択圧を受けておらず、発症に大きく寄与すると考えているde novo突然変異や、独自に見いだした統合失調症多発家系患者の患者特異的変異等の、分子病態に直結する変異を解析することを目的としている。本年度は、以下の成果を得た。 1)精神疾患への関与が強く示唆される3q29領域欠失を導入した疾患モデルマウスの社会行動異常がオキシトシンの投与によって回復することを明らかにした。また、このマウスでは室傍核におけるオキシトシン産生神経細胞数が野生型マウスと比べて少ないことを明らかにした。この結果は、3q29領域欠失により、オキシトシン産生神経細胞の発達が異常になることを示唆している。 2)3q29領域欠失を導入した疾患モデルマウスでは、社会性行動後の聴覚野の神経活動に異常があることを見いだしている(Neuropsychopharmacology, 2019)。聴覚野の神経活動と社会性行動との関連性を単一細胞レベルで明らかにすることを目的として、刺激により活性化した神経細胞を、Arc-dVenusマウスを用いたVenus発現を指標として、FACS装置を用いて分取するシステムを開発した。開発した手法を用いて、聴覚野において社会性行動後に特異的に活性化する神経細胞を分取することに成功した。
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