研究課題/領域番号 |
18H02577
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
中村 昭則 信州大学, 医学部, 特任教授 (10303471)
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研究分担者 |
柴 直子 信州大学, 医学部, 助教(特定雇用) (00639289)
柴 祐司 信州大学, 学術研究院医学系, 教授 (70613503)
青木 吉嗣 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部, 部長 (80534172)
宮崎 大吾 信州大学, 医学部附属病院, 講師(特定雇用) (80596370)
武田 伸一 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, その他部局等, 理事 (90171644)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Duchenne型筋ジストロフィー / DMD遺伝子 / エクソン・スキップ治療 / アンチセンス薬 / ゲノム編集 / iPS細胞 |
研究実績の概要 |
Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)は、DMD遺伝子の変異によりジストロフィンが完全に欠損し、その結果全身の骨格筋・心筋の変性・壊死が進行性に起こる。最終的には、呼吸不全または心不全・不整脈により30台半ばで死亡する致死性疾患である。未だに根本治療は開発されていないが、近年ウイルスベクターを用いた遺伝子治療やアンチセンス核酸(核酸医薬品)によりアミノ酸の読み取り枠を修正するエクソン・スキップ治療の臨床応用が進んでいる。これらの方法ではDMDの表現型をより軽症で正常ではないものの機能的なジストロフィンを発現しているBecker型筋ジストロフィーの表現型に変換している。エクソン・スキップ治療はアンチセンス核酸のみならずゲノム編集技術を用いた検討も行われている。我々や他のグループからDMD遺伝子のエクソン3-9欠失患者の骨格筋症状が無症候であることが報告された。DMDでは約10%のDMD遺伝子変異がエクソン3~7の領域に集積していることから、エクソン3~9内に変異を有するDMDに対してエクソン3-9スキップ治療が可能となれば、極めて有効な治療法になることを報告・提案してきた。 本研究では、1)健常者の末梢血リンパ球から樹立したiPS細胞に対しゲノム編集技術を用いてDMDの表現型を示すエクソン3-7欠失型iPS細胞株と、エクソン3-7欠失患者のiPS細胞株を作製・樹立すること、2)これらのiPS細胞株から分化誘導した骨格筋、心筋細胞に対しアンチセンス核酸およびゲノム編集によるエクソン8、9スキップ治療を行うこと、3)両者の治療効果の比較およびエクソン3-9スキップ治療の有効性を検討することを目的とした。 これまでの研究では、DMD遺伝子エクソン3-7欠失を有するDMD患者のiPS細胞株、正常iPS細胞に対しゲノム編集によるエクソン3-7欠失したiPS細胞株の作製に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度の継続から、DMD遺伝子エクソン4-7欠失を有するDMD患者、エクソン3-9欠失を有するBMD患者、および健常者から末梢血リンパ球を採取・分離し、OCT3/4、SOX2、KLF4、L-Myc遺伝子を導入することによりiPS細胞の樹立と心筋・骨格筋細胞などへの分化誘導を検討してきた。しかし、遺伝学的バックグラウンドが異なる細胞株を用いた場合、ジストロフィン遺伝子発現の回復程度や網羅的遺伝子発現解析に差異などが生じる可能性があると考えられたため、正常者の末梢リンパ球から誘導したiPS細胞に対してゲノム編集によりエクソン3-7欠失iPS細胞、エクソン3-9欠失iPS細胞を作製して、その細胞に対してアンチセンス核酸およびゲノム編集による治療実験を行う方針に変更したためやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
DMD遺伝子エクソン3-7欠失を有するDMD患者のiPS細胞株、正常iPS細胞に対しゲノム編集によるエクソン3-7欠失株の作製に成功した。これらのiPS細胞を心筋、骨格筋細胞に誘導してエクソン8及び9に対してアンチセンス核酸によるエクソン・スキップ治療およびゲノム編集を行って本研究の最終目的であるエクソン3-9欠失型細胞を作製し、その治療効果の比較・検討を行う。具体的には以下のように進める。 1)患者細胞および正常細胞から作製したエクソン3-7欠失型iPS細胞由来の心筋、骨格筋細胞に対して、アンチセンス核酸によるエクソン8、9スキップを行い、ジストロフィンタンパク質の発現回復および治療前後におけるジストロフィン関連タンパク質の発現を検討する。治療前後の各細胞を用いてマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析を行い、発現に有意差のある分子については定量的PCRおよびウエスタンブロットで確認をする。細胞機能についてカルシウムイメージングによるカルシウム動態の検討を行う。 2)患者細胞および正常細胞から作製したエクソン3-7欠失型iPS細胞に対し新たに設計したguide RNAとCRISPR/Cas9コンポーネントを発現ベクターで導入し、エクソン8、9 をスキップするようにゲノム編集を行う。ゲノム編集を受けたiPS細胞を心筋、骨格筋に分化誘導し、ジストロフィンタンパク質の発現回復および治療前後におけるジストロフィン関連タンパク質の発現を検討する。治療前後の各細胞についてマイクロアレイを用いた遺伝子網羅的発現解析を行い、発現に有意差のある分子については定量的PCRおよびウエスタンブロットで確認する。細胞機能についてカルシウムイメージングによるカルシウム動態の検討を行う。 3)エクソン3-9スキップ治療におけるアンチセンス核酸およびゲノム編集の治療効果について比較・検討を行う。
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