研究課題
令和元年度は,以下のテーマを推進し,以下に示す結果を得ることに成功した.1.NO依存的誘導遺伝子の特定とそのエピジェネティックな制御:これまでに使用していた胃がんモデル細胞に加えて,HeLa細胞を用いて研究を進めた.まず,NOによって発現が上昇する遺伝子に関しては,qPCRを用いて定量的な解析を実施した.また,神経細胞において,NO 刺激に伴って発現が誘導される遺伝子を次世代シークエンサーを用いたSAGE法で単離した.およそ120種の新規NO応答性遺伝子の特定に成功し,その一つについて解析を進めている.本遺伝子は中枢神経系での発現がほとんど報告されておらず,強制発現によって速やかに細胞死が惹起されることを明らかにした.本遺伝子の発現も私たちが開発したDNMT3ニトロシル化阻害薬であるDBICによって減弱されることも確認できた.2.DBICおよびその誘導体の薬理学的特性:前年度に引き続き,DNMT誘導体を計12種合成することに成功した.それらのSーニトロシル化抑制能を細胞レベルで検討した.その結果,DBICと同等かそれ以上の効力を有する化合物が2種が特定した.現在,in vivoでの作用を検討するための最適化を行っている.3.ゲノムレベルでのNO依存的なメチル化修飾変化部位の同定:ゲノムワイドにNO依存的脱メチル化部位を探索することを試みた.まずは全CpGの95%程度をカバーするターゲットバイサルファイトシークエンス解析を実施し,いくつかの部位の検出に成功した.しかしながら,予想よりも検出される部位が極端に少ないことから,予算の面からも,本方法での解析には限界があると判断した.そこで,SAGE解析で検出された個々の遺伝子の上流CpG部位を解析していく予定である.
1: 当初の計画以上に進展している
これまでに,NOの基質探索を行い,エピゲノムに重要な酵素の特定に成功してきた.NOは本酵素の活性を負に調節することで,遺伝子発現を誘導することを見出してきた.さらに,炎症生がん形成におけるNO誘発性エピジェネティクス変化を解析したきた.胃がんモデル細胞や子宮がんモデル細胞を用いて,細胞増殖亢進遺伝子の発現を明らかにした.この際,遺伝子上流CpGアイランドの変化に関しても明らかにすることができた.これらの成果は,世界初の知見である.加えて,分子特異的なNO修飾阻害薬の作出にも成功した.この化合物は既に特許取得していること,さらには,モデル動物におけるNO依存的な腫瘍形成をほぼ完全に消失させることを明らかにすることができた.以上の成果は,NOによるがん形成メカニズムを証明し,さらに有効な治療薬候補の提示に繋がったと判断でき,現在,英文原著論文をリバイスしているところである.さらには,がん以外にもパーキンソン病形成にも同じような機構が存在することを明らかにし,現在,詳細な解析を行っている.加えて,さらに有効なNO作用阻止化合物を作出し,低用量でかつ,経口投与可能なものを探索している.これらを推進することは,NO分野のみならず,神経系やがんなどのような炎症性疾患発症の概念を変えるものとなることが予想される.
今年度は最終年度でもあるので,以下のように進める.1)NO依存性腫瘍形成メカニズムの特定と新規分子特異的NO作用阻止薬の開発:現在,これまでの成果をまとめ,投稿を済ませており,審査の結果,追加実験を行うことを要求されている.そのほとんどを終え,リバイスを準備しているところである.採択に向けて,慎重に取り組む.2)ドパミン神経細胞・パーキンソン病発症におけるNOの役割:これまでに神経モデル細胞,初代培養神経細胞,iPS由来神経細胞,パーキンソン病モデル動物において,スクリーニングでヒットした候補遺伝子がNO依存的に上昇することを明らかにした.この遺伝子誘導機構に関して,詳細な解析を行う.また,その標的遺伝子産物は既知物質であることから,これに対する阻害薬の細胞死への効果について検討する.さらには,分子特異的NO作用阻止薬の効果も併せて検討する.最終的には,モデル動物への投与によって,病態形成が抑制されるか,免疫組織学的検討や行動薬理学的検討から明らかにする.3)分子特異的NO作用阻止薬のさらなる開発:より低容量でのS-ニトロシル化阻害能を発揮する化合物の探索をin silicoから行う.これらの誘導体の問題点として,難水溶性が挙げられる.種々の官能基を導入することで水溶性を上げ,経口投与可能な化合物を作出することを目指す.
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
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