本年度は我々が開発してきた「標的タンパク質指向型天然物単離法」の一つ,Hes1ビーズとHes1プレートを用いた天然物単離で見いだした,lindbladioneの全合成に成功した.またさらにlindbladioneの誘導体を計算科学を用いてデザインし合成した.合成lindbladioneは天然物と同等のHes1二量体形成阻害活性を示し,神経幹細胞の分化を活性化した. また,Hes1蛍光プレート法およびHes1ビーズ法にて天然物単離探索を続け,バングラデシュ産植物よりHes1二量体形成阻害剤を,プレート法にてPsidium guajavaから8種,ビーズ法にてTerminalia chebulaからエラグ酸誘導体1種を単離,構造決定に成功した.エラグ酸誘導体はIC50=2.53 uMのHes1二量体形成を示し,神経幹細胞のニューロン分化を5 uMにてコントロールに比べて125%も増加させた.また計算科学にてHes1とのドッキングシュミレーションを行った.Hes1二量体形成阻害剤は我々が報告した数例しかなく,今回の化合物は神経幹細胞分化活性化剤のリード候補となり得ると考えている. また,幹細胞維持,分化に重要なNotchシグナル阻害剤の探索を細胞アッセイ系を用いて行い,タイ産植物Lansium domesticumからhonghelinをNotchシグナル阻害剤として見いだした.HonghelinはNotchシグナルが更新している白血病細胞HPB-ALLに対し,IC50=34 nMの強い毒性を示し,一方で正常T細胞には60 uMでも毒性を示さなかった.HonghelinはNotchシグナルの標的であるHes1の発現を著しく阻害した.核内の三量体の構成成分の一つMAMLと,Notch受容体Notch1 (Full)を発現阻害しており,その2点で阻害作用を発揮していると考えられた.
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