薬物排出膜輸送体であるBCRP/ABCG2に焦点を当てそのバイオマーカーを探索した。前年度に検討したマウス摂取餌の中で、BCRP阻害剤投与によって血中や尿中イオンピークの多くが変化し、かつ、ヒトも普段の食事から摂取する食材として大豆を含む餌をマウスに与え、検討を進めた。アンターゲットメタボロミクス解析の結果、BCRP阻害剤ラパチニブの経口投与によって再現良く増加する血漿中イオンピークが複数同定された。その中には、3種類のイソフラボン硫酸抱合体が含まれていた。そこで、新たにBCRP阻害剤としてフェブキソスタットも含め2つの阻害剤をそれぞれ投与した後、BCRP典型基質薬物であるスルファサラジンを経口投与し、その血漿中濃度推移とともに、3種類の硫酸抱合体の濃度も同時に測定したところ、すべての化合物の血漿中濃度下面積と最大血漿中濃度が阻害剤投与によって増加し、これら硫酸抱合体のBCRPバイオマーカーとしての有用性が示唆された。培養細胞にBCRP遺伝子を強制発現させ細胞膜小胞を採取したところ、これら硫酸抱合体のATP依存的かつ空遺伝子を発現させた時よりも高い取り込みが見られ、2つのBCRP阻害剤によって濃度依存的に低下したことから、BCRPの阻害が示された。さらに小腸BCRPの関与を示唆するため、iPS由来ヒト小腸上皮細胞を用い、管腔側にこれら硫酸抱合体の親化合物を添加後、血管側への硫酸抱合体の出現を検討したところ、2つのBCRP阻害剤共存下で硫酸抱合体の出現が増加した。大豆等の食物に含まれるイソフラボンが、小腸で吸収されたのち硫酸抱合を受け、当該抱合体やイソフラボン自身がBCRPによって管腔中へ排出され、その排出が阻害されることによって硫酸抱合体の血中濃度が増加するものと推測された。BCRP阻害剤投与によって変化するバイオマーカーは未だ報告がなく、初めての報告例である。
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