研究課題
抗がん剤などで引き起こされる肺線維症は、臨床上大きな問題であるが、発症のメカニズムは不明である。肺線維症は、筋線維芽細胞による過剰な細胞外マトリックスの産生に起因するが、近年、その由来として肺胞上皮Ⅱ型細胞の筋線維芽細胞への転換(上皮間葉転換;EMT)が注目されている。本研究ではマイクロRNA(miRNA)に着目し、特定のmiRNAが薬剤誘発性EMT、ひいては薬剤性肺線維症の原因、バイオマーカーおよび治療標的となり得るかについて検討することを目的とする。令和元年度の成果は以下のとおりである。1) A549/ABCA3細胞を用い、肺障害を起こす可能性があるゲフィチニブ(GEF)、パクリタキセル(PTX)の影響について検討した。その結果、細胞をGEFおよびPTXで処置することによってEMT誘発の指標となるα-SMAのmRNA発現上昇を認めた。またmiR-34aの発現上昇も認められたことから、miR-34aの発現上昇は、複数の肺障害性抗がん剤に共通して認められる普遍性の高い現象と考えられた。2) A549/ABCA3細胞にmiR-34aのmimicを導入したところ、mimicの濃度に応じたmiR-34aの発現上昇が観察された。そこで、最も高い発現を認めた21 nM miR-34a mimicで細胞を処置し、96時間後に間葉系細胞マーカーの発現を測定したところ、α-SMA、Fibronectin、COL(コラーゲン)1A1のmRNA発現上昇を認めた。従って、miR-34aの導入のみでもEMTが誘発されることが明らかとなった。3) マウスに5 mg/kgのBLMをマイクロシリンジで気管内投与後、21日目に肺を摘出し組織中のヒドロキシプロリンの含量を測定した。その結果、BLM投与群でヒドロキシプロリン含量の有意な上昇を認め、肺線維症(線維化)の誘発が確認された。
2: おおむね順調に進展している
令和元年度の研究計画はほぼ達成できたと考える。
A549/ABCA3細胞を用い、マイクロアレイ解析によってブレオマイシン(BLM)、メトトレキサート(MTX)の両薬剤処置で発現が1/2以下に低下するmiRNAとして選別されてきたmiR-484に着目してEMTとの関係性について検討を進める。またmiRNAあるいはmRNAのマイクロアレイ解析結果を活用し、薬物誘発性EMTに関わる細胞内経路についても解析する。さらに肺線維症モデル動物の肺組織や血漿中のmiRNAについて解析し、バイオマーカーとして有用なmiRNAを探索する。
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