研究課題
TRICチャンネル研究の概要:心筋細胞では大量のTRIC-Aと微量のTRIC-Bチャネルが共発現しているが、両サブタイプの同時欠損により小胞体Ca2+ストアの機能破綻による胎生心不全と誘発される。TRIC-A欠損マウスには致死性がないため、心筋細胞に残存するTRIC-Bチャネルの機能亢進が推定された。TRIC-A欠損心臓より小胞体分画を調製し、人工脂質二重膜再構成系に供してTRIC-Bチャネル活性を測定したところ、複数チャネルの同時開口現象が頻繁に観察された。野生型心臓とTRIC-A欠損心臓ではTRIC-B発現量は同等であるため、TRIC-B同時開口の亢進は翻訳後修飾などの機構によると考察され、Ca2+放出時におけるTRIC-A欠損による小胞体内腔へのカウンターイオンの導入現象を補完するものと推定された(発表論文1)。一方、TRIC-B欠損マウスの骨形成不全症の解析時に、成長骨内の軟骨細胞にて自発的なCa2+振幅を偶然見出した。このCa2+振幅の形成にはTRIC-Bの関与は確認されなかったが、細胞膜のTRPM7チャネルの開口に起因することが明らかになった。軟骨細胞特異的TRPM7欠損マウスでは骨伸長が著しく抑制されるため、見出された軟骨細胞Ca2+振幅は骨形成に寄与することが判明した(発表論文2)。MG23チャンネル研究の概要:MG23は小胞体陽イオンチャネルと想定されるが、その欠損マウスは正常に成長・繁殖する。抗癌薬ドキソルビシンには重篤な心毒性が知られており、この副作用は心筋小胞体Ca2+ハンドリング異常を誘発することに起因すると推定されている。MG23欠損マウスにドキソルビシンを投与したところ、正常マウスで観察される心不全死が観察されなかった。このMG23欠損によるドキソルビシン抵抗性の詳細検討に向けて、ウイスコンシン大・心血管研究所チームと共同研究を締結して、変異マウスコロニーを米国側に構築した。
2: おおむね順調に進展している
TRICチャネルの解析では着実に研究成果が得られており、国内外共同研究成果として論文発表も順調である。また、附帯した観察結果を発展させた軟骨細胞のTRPM7チャネルの研究成果も結実した。一方、MG23チャネルの解析では若干の進展遅延があるが、共同研究の準備状況はほぼ整っており、今後2年間での発展が期待される。従って、両プロジェクトを平行して推進する本研究課題としては、概ね順調に進展していると評価される。
TRICチャネルの解析では、英国オックスフォード大の人工脂質二重膜再構成における単一チャネル計測グループと米国オハイオ州大のCa2+スパーク計測グループとの円滑な共同研究を推進し、研究代表者グループのKOマウスや遺伝子導入細胞の試料を供給することで、今後も良質な研究成果が期待される。一方、MG23チャネルの解析においても、昨年度にはKOマウスコロニーを米国ウイスコンシン大に構築し、本格的な心臓機能検討を実勢する状況が整い、本年度より意義深い成果が得られることが期待される。
すべて 2019 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 備考 (1件)
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