研究課題
TRICチャネルに関する研究では、心筋小胞体におけるTRIC-Aの機能に関する解析が大いに進展した。培養細胞cDNA発現系でTRIC-Aは2型リアノジン受容体(RyR2)による小胞体Ca2+放出を促進することで、小胞体Ca2+含量を低下させることが示された。TRIC-A欠損マウスでは心ストレス負荷による細胞死と線維化が亢進することから、心筋細胞におけるTRIC-AによるRyR2の活性化は生理的に不可欠な機構であると考えられた。また、TRIC-AのC末端セグメントがRyR2との活性化に重要であるとの成果も得られた。これらの成果を発表論文に取りまとめた(論文リスト1)。また、TRIC-A欠損心筋細胞では、残存するTRIC-Bのチャネル開口が顕著に亢進しており、TRIC-A欠損によるカウンターイオン不足を部分的に補完していることも観察された(論文リスト2)。MG23チャネルに関する研究では、MG23欠損マウスにて観察されるドキソルビシン心毒性の軽減のメカニズム検討を継続した。当該研究グループ所属の大学院生が米国ウイスコンシン大学心臓研究グループ内で研鑽し、単一心筋細胞を調製して高時間分解能Ca2+イメージング実験手法を会得した。ドキソルビシン負荷心筋細胞のCa2+ハンドリング異常の検討を遂行中であり、少なくとも投与2週間後では小胞体Ca2+含量が低下することが観察されている。この異常は心不全の心筋細胞と共通しており、ドキソルビシン心毒性に直接寄与するものと考察される。
2: おおむね順調に進展している
TRIC研究は計画以上に進展し、昨年に引き続き2019年度にも論文発表に恵まれた。一方、MG23研究では実験担当者の技術習得が問題となり、当初計画よりもやや遅延している。
TRIC研究では、TRIC-AによるRyR2活性化機構の分子メカニズムの解明するため、予測される相互作用を単一チャネル測定実験や精製タンパク質の生化学実験にて検討する。また、並行して解析中のTRIC-B欠損の骨や肝組織における機能異常を明らかにすることで、TRIC-Bの生理的機能を解明する。MG23研究では、上述のMG23欠損によるドキソルビシン心毒性の軽減機構の詳細解明を試みる。一方では、新型コロナウイルス問題にて海外グループとの実験材料の運搬や共同研究者の派遣などで、2020年度には支障が危惧される。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件)
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