研究課題
1.私たちはこれまで2光子顕微鏡を用いた生体イメージングによって、ミクログリアがシナプスに1時間に1度約5分程度直接接触することを明らかにしている(Wake et al., 2009)。本研究ではその機能的意義および高次脳機能への寄与を明らかにするために、ミクログリアに特異的にGFPが発現しているマウスの大脳皮質運動野にアデノ随伴ウィルスを用いて、神経細胞にカルシウム感受性蛍光タンパク質(GCaMP6f)および赤色蛍光タンパク質(tdTomato)を発現させ、2光子顕微鏡を用いて生体覚醒下でミクログリアの接触によるシナプス活動の変化を検証すべく、観察を行った。その結果、ミクログリアがシナプスに接触している間、シナプス活動が増強していることを明らかにした。詳細な解析によってミクログリアはシナプス活動の強いシナプスに誘引され、接触することでシナプス活動を増強し、そのシナプスを持つ神経細胞の活動電位の頻度を増加させることがわかった。さらにミクログリアを除去したマウスにおいては、神経細胞集団の活動の同期性が失われ、学習行動が阻害されることが明らかとなった。さらに炎症などによってミクログリアが活性化された際には、ミクログリアの接触によってもシナプス活動は増強しないことが明らかとなり、それを反映してミクログリアの活性化したマウスでは除去したマウス同様、神経細胞集団の活動の同期性が失われ、学習行動が阻害されることが明らかとなった。2.体循環系の炎症を起こしたマウスにおいて、ミクログリアが血管に接着するように遊走してくることおよびその接着によって、炎症初期には血液脳関門(BBB)とタイトジャンクションを形成し、BBBを保護すること、炎症後期にはミクログリアが貪食能を獲得し、アストロサイトの足突起を貪食することでBBBを障害することを明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
現在複数の論文が査読中であり、順調に進捗している。
今後の研究推進方策としては、まず運動学習にミクログリアが関与し、さらに神経活動依存的にミクログリアがシナプスに誘引されるのであれば、ミクログリアの動態は運動学習にともなって変化するはずである。さらにこれらの現象が病態モデルで障害されていることを示す。またミクログリア特異的な遺伝子プロファイルを病態モデルで明らかにすることで高次機能異常を担うミクログリアの分子基盤を回路基盤と関連づけて明らかにする。1.運動学習にともなって生じるミクログリアの動態変化を明らかにするために、レバー引きによる水報酬学習を用いる。ミクログリア特異的にGFPが発現するマウスにこの運動学習を2週間行わせ、その間の動態変化を観察する。得られたミクログリアの動態を数理学的に解析することで、その変化を抽出し、そこからシナプスへの作用を明らかにする。2.病態モデルとして、統合失調症モデルを用いる。本モデルにおいてミクログリアのシナプス活動修飾メカニズムの変化を抽出するとともに、血液脳関門に対する制御機構の変化も明らかにする。3.マウントサイナイ大学Anne Schaeferとの共同研究によって、各病態における領域特異的なミクログリアの発現遺伝子変化を抽出する。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 4件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 4件)
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