研究課題
ヌクレオシドはRNAの構成成分であると同時に、幅広い生理作用を有するシグナル因子でもある。これまでの研究はアデノシンやATPを中心に展開され、受容体やシグナル経路の同定により現在円熟期を迎えている。しかし近年、RNA中のヌクレシドに多種多様な化学修飾が見出され、内在性ヌクレオシドは従来の概念よりはるかに複雑であることが明らかになってきた。我々はこれまでにRNA修飾の破綻が2型糖尿病など様々な疾患の発症に繋がることを明らかにした。最近、RNAが細胞内で代謝・分解された後、化学修飾されていたヌクレオシドが修飾を含んだまま細胞外や血中に分泌されることを見出した。本研究は、修飾ヌクレオシドと結合するGPCRの網羅的なスクリーニングならびに細胞内情報伝達機構の解明を通して、ヌクレオシドの新たな生理作用の解明を目的とする。平成30年度において、修飾ヌクレオシドに対する受容体を網羅的に同定するために、Shedding Assay法を用いたスクリーニングを行なった。具体的には、GPCRの活性化に依存して細胞膜から培養上清に遊離するアルカリホスファターゼを発現するHEK細胞に、各種アデノシン受容体、P2X、P2Y受容体およびヌクレオシド受容体ファミリーに属するGPCRを発現させる。次に、修飾ヌクレオシドで細胞を刺激し、培養上清中のアルカリホスファターゼ活性を発色法で検出することで、受容体の同定を行った。その結果、メチルアデノシンがアデノシンA3受容体を特異的に活性化できることを発見した。さらに、細胞内シグナル伝達を検討したところ、メチルアデノシン刺激がERKやAKTを活性化することが明らかになった。以上のことから、メチルアデノシンは新たな情報伝達分子であることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
平成30年度において、修飾ヌクレオシドの網羅的なスクリーニングを行なったところ、メチルアデノシンについて受容体の同定と細胞内情報伝達機構を明らかにし、当初の計画を十分に達成できたため、研究がおおむね順調に進展している。
今後は、その他の修飾ヌクレオシドについて引き続きスクリーニングを行い、GPCRと結合する受容体の同定を目指す。一方、メチルアデノシンの受容体と細胞内情報伝達機構が明らかになったため、生体内におけるメチルアデノシンの生理作用の解明を進める予定である。具体的には、メチルアデノシンを慢性的にマウスに投与したときに、体重や体温など様々パラメーターを検討するとともに、各臓器の形態をHE染色や電子顕微鏡で観察し形態的な変化を検討する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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