研究課題
生活習慣病や慢性臓器障害の新規治療戦略のためには、生体内恒常性制御のメカニズムの包括的な解析を進め、病態の本質を解明することが不可欠である。我々は、生体内の恒常性維持と臓器間連携を司る、新しい「生理活性因子の情報制御システム」=「RAMPシステム」を同定し、生活習慣病や慢性臓器障害の新たな治療標的としてRAMPシステムに着目した。アドレノメデュリン(AM)は、血管拡張作用をはじめ、血管新生作用、抗酸化ストレス作用、抗炎症作用など多彩な生理活性を有する心脈管作動物質である。我々はAMの機能の多様性を制御するメカニズムを解明するため、AMの受容体システムに着目した。AMおよびそのファミリーペプチドからなるカルシトニンスーパーファミリーの受容体である7回膜貫通型Gタンパク共役型受容体CLRには、RAMPと呼ばれる受容体活性調節タンパクが結合し受容体の機能を制御している。RAMPには1~3までのサブアイソフォームが存在する。本研究では、我々のこれまでの研究基盤に基づき、心血管代謝系疾患を中心に、RAMPシステムの障害に伴い、生体内外からのストレスへの応答不全・破綻から引き起こされる病態のメカニズムを解明する。各病態に対して、抗体や低分子化合物を用いることで、RAMPシステムの制御法を開発する。これらのアプローチにより、生活習慣病や慢性臓器障害などに対する新たな創薬につなげることを目的とする。
2: おおむね順調に進展している
アドレノメデュリン(AM)は、血管拡張作用に留まらず、多彩な生理活性を有するペプチド因子である。我々はこれまで、AMおよびAM受容体活性調節タンパクRAMP2のホモノックアウトマウス(-/-)が、共に血管の発生異常により胎性中期に致死となること、さらに血管内皮細胞特異的RAMP2-/-も、その多くが血管の構造異常と全身性浮腫により出生直前に致死となることから、AM-RAMP2系が血管の発生、特に血管内皮細胞の分化に必須の因子であることを明らかとした。一方、成体の血管におけるAM-RAMP2系の意義の詳細は不明であった。我々は、RAMP2遺伝子改変マウスを用いてWire injury modelを作成し、RAMP2系の病態生理学的意義を検討した。まず、成体が得られるRAMP2ヘテロノックアウトマウス(RAMP2+/-)を用いて、大腿動脈にWire injuryを行い、新生内膜形成を検討した。 4週間後、RAMP2+/-では野生型マウス(WT)に比較して、有意に新生内膜形成が亢進し、再内皮化の抑制、平滑筋増殖の亢進、新生内膜、外膜のマクロファージ浸潤亢進、炎症性サイトカインや酸化ストレスレベルの亢進を認めた。次に、成体において血管内皮細胞RAMP2欠損を誘導することができる、誘導型血管内皮細胞特異的RAMP2-/- (DI-E-RAMP2-/-)を作成して同様の検討を行ったところ、新生内膜形成の著明な亢進が確認された。さらに、骨髄由来幹細胞の関与を検討するため、骨髄移植(BMT)を行なったところ、RAMP2+/-からWTにBMTを行なったマウスでは、RAMP2+/-と同等の新生内膜形成が認められた。以上から、AM-RAMP2系は、血管内皮再生作用、抗炎症作用、抗酸化ストレス作用により新生内膜形成を抑制すること、さらにこうした血管保護作用には骨髄由来血管前駆細胞の関与が示唆された。
従来、RAMP2とRAMP3の機能分化や病態生理学的意義は不明であった。今後の研究では、RAMP2とRAMP3について、胎生期から全身で遺伝子欠損させたマウス、あるいは成体において各組織特異的に遺伝子欠損を誘導できるマウスを樹立し、発生の異常や、成体での遺伝子欠損誘導後の変化を検討し、両者の機能分化を明らかとする。さらに、炎症の促進に関わるRAMP3を抑制する、あるいは炎症の抑制に関わるRAMP2を活性化することで、潰瘍性大腸炎などの自己免疫性疾患の治療に応用する。
http://www7a.biglobe.ne.jp/~shindo/
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件) 図書 (2件)
Am J Pathol.
巻: 189 ページ: 449-466
10.1016/j.ajpath.2018.10.021.
Peptides.
巻: 111 ページ: 55-61
10.1016/j.peptides.2018.04.004.
巻: 110 ページ: 10-18
10.1016/j.peptides.2018.10.006.
J Hypertens.
巻: 36 ページ: 876-891
10.1097/HJH.0000000000001649.