研究課題
哺乳類の心筋細胞は、生殖直後に増殖能を著しく失うため、成体(Adult)心臓の修復・再生能は極めて低いと考えられてきた。申請者は、心筋炎で心機能が低下した臨床症例の70-80%が自然治癒することに着目し、ヒトの心筋炎と同様の経過をとるマウス実験的自己免疫性心筋炎(EAM)モデルを用いて、炎症により傷害を受けた心筋組織が自己修復する機序を解析してきた。その結果、成体マウスにEAMを誘導すると、その回復期に心筋細胞が増殖することが明らかになった。本研究は、心筋細胞が細胞周期に再進入するメカニズムを明らかにすることを目的とする。上記の目的を達成するために、2019年度は以下のことを行った;(1) これまで心筋細胞におけるSTAT3分子の活性化が、心筋細胞の増殖を促し、心筋組織の修復に必須であることを報告してきた。今年度、新たに、EAM後の心筋組織で活性化される転写因子に見出し、その遺伝子が修復に必須であることを心筋特異的遺伝子欠損マウスを用いて確認した。現在、その機序を解析している。(2) 2018年度作製した、Fuccciシステムを利用した増殖心筋細胞可視化技術を用いて、化合物ライブラリー(薬理学的機序が知られている1360化合物を使用)から心筋細胞増殖を促進する化合物のスクリーニングを行った。その結果、(薬理学的機序の重複を考慮すると)約30種類の心筋細胞増殖促進候補シグナルを見出し、そのうち、5化合物に関しては、抗Ki-67抗体を用いた免疫染色法によっても心筋細胞増殖促進作用が確認された。
2: おおむね順調に進展している
心筋組織修復を担う新規の遺伝子を見出したことは、非常に重要な進展であり、ほぼ当初の計画通りに進んでいると考えている。増殖心筋細胞を検出するためのトランスジェニックマウスに関しては、偽陽性の細胞が認められ、当初の予想とは異なった結果を得たが、アデノウイルスベクターを用いた発現系により、その欠点を補った。化合物ライブラリースクリーニングにより、心筋細胞増殖に関与する遺伝子をnon-biasにスクリーニングし、候補シグナルを得ている点は、期待以上であった。増殖している心筋細胞の核を調製することを目指しているが、純度が低く計画よりも遅れている。
2019年度新たに見出した、新規心筋組織修復遺伝子に関して、組織修復機序を解明する。具体的には、遺伝子欠損マウスにおいて発現が変化している遺伝子を網羅的に解析し、その機能を検討する。「現在までの進捗状況」に記しているように、増殖している心筋細胞の核の調製は計画よりも遅れているが、今年度はそれと並行して、スクリーニング系で見出した心筋細胞増殖シグナルが、EAMにおいて活性化されているかどうかを検討することで対応する。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
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