社会の高齢化に伴い、循環器疾患が増加し、その結果、心不全患者の数が急増している。心不全の原因は、心筋細胞の減少による心機能の低下にある。哺乳類の心筋細胞は生直後に増殖能を著しく失うため、心筋組織は再生能が低い組織であり、様々な循環器疾患によって心筋組織に傷害が起こっても組織修復が不十分にしかおこらず、心不全が発症すると考えられている。しかしながら、臨床的には、ウイルス性心筋炎では心筋組織が強く傷害を受けても約80%の症例で組織学的また機能的な回復もしくは改善をみる。申請者はマウス実験的自己免疫性心筋炎(EAM)モデルを用いて、心筋炎後の心筋組織の回復過程を解析し、成体の心筋細胞であっても増殖能を回復しうることを見出した。 そこで、本研究では、マウスEAMモデルを用いた分子生物学的解析、および、培養心筋細胞を用いたノンバイアスなスクリーニング解析から、心筋細胞の細胞周期活性を増強する3つのシグナルを見出した。さらにそれらのシグナルを同時に活性化することで、心筋細胞の増殖活性が相乗的に高まることを見出した。 現在、重症心不全患者に対して、iPS由来心筋細胞等、外因性の心筋細胞を用いた再生医療が開発されようとしている。しかしながら、機能回復に十分な細胞を得るには技術的にも経済的にも依然問題を抱えている。本研究の成果は、内因性の心筋細胞に細胞増殖を誘導し心筋組織の修復を促すものであり、上記の問題を克服しうると考えられる。
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