研究課題
災害、事故や薬物により惹起される横紋筋融解症は重篤化すると急性腎障害(AKI)を起点として多臓器不全に至る致死性病態であり、災害多発国の本邦 において、予後を改善できる画期的な薬剤の開発が切望されている。横紋筋融解症AKI時には、腎臓のヘムオキシゲナーセ-1が活性化し、それより派生 する“生理活性ガスの一酸化炭素(CO)”がストレス応答防御機構として重要な役割を果たしていることから、本研究では医療機関や災害時等の多様な状 況下でも使用可能な横紋筋融解症AKIの新規治療薬を開発すべく、“アルブミン創薬プラットフォーム” を基軸として、ヘモグロビンを担体とするCO放 出ナノ製剤を作製し、さらに腎指向性ペプチドを搭載することで、“腎臓への効率的なCOデリバリーシステム”の創製を試みた後、その予防・治療効果 及び安全性を非外傷性(1種類)及び外傷性(2種類)横紋筋融解症モデル動物を用いて検証する。
2: おおむね順調に進展している
外傷性横紋筋融解症モデルとして、40%脱血により誘発した出血性ショックモデルラットを用いて検討した。50%グリセロールをラットの両下肢に筋肉内投与し、その1時間後から、40%脱血を行った。この出血性ショック併発の横紋筋融解症AKI系に対して、本研究で開発した腎指向型COデリバリーシステムを静脈内投与し、病態改善効果を検証した。その結果、saline投与群では全てのラットが9時間以内に死亡したのに対して、腎指向型COデリバリーシステム投与群では24時間後でも100%の生存が確認された。出血性ショックの標準治療である赤血球輸血を行ったが、24時間後における生存率は10%であった。また、腎機能及び腎障害を評価したところ、saline投与群で観察された重度な腎障害が腎指向型COデリバリーシステム投与群では顕著に改善されていた。これらの結果から、腎指向型COデリバリーシステムによる生存率の改善は、本生理ガスデリバリーによるCOと酸素の供給によるためではないかと推察された。特に、腎保護効果には、腎臓へのCO供給が大きく寄与していることが示唆された。クラッシュ症候群誘発AKIモデルラットに対する腎保護効果に関しては、予備的な検討を行った。既報に従い、2kg負荷で作製したゴムバンドをラットの両下肢付け根に装着 し、5時間下肢を圧迫した後に、ゴムバンドを解除することで病態モデルを作製した。ゴムバンド圧迫を解除した1時間後の段階で、saline及び腎指向型COデリバリーシステムを投与したところ、saline投与群では全てのラットが短時間で死亡したが、腎指向型COデリバリーシステム投与群では全例の生存が観察された。予備的検討結果ではあるが、腎指向型COデリバリーシステムはクラッシュ症候群誘発AKIモデルに対しても有効である可能性が示唆された。以上のこと から、本研究課題は概ね順調に進展していると思われる。
前年度に検討したクラッシュ症候群誘発AKIモデルに対する腎指向型COデリバリーシステムの治療効果(生存率、腎機能、腎障害、血液及び生化学パラメータ、尿所見)を再度検証する。その際、コントロール群としては、saline群と腎指向性ペプチドを付与していないCOデリバリーシステムを用いる。また、本モデルに対するCO供給能を血中CO濃度推移及び腎臓と他の臓器内濃度を測定して評価する。最後に、COによる腎保護効果のメカニズムを横紋筋融解症誘発AKIラットの腎臓及びヒト近位尿細管細胞を用いて検討する。
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Kidney360
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