近年、細胞が持つ基本的なストレス適応機構として、ストレス顆粒(SG)の形成が重要である事が見出された。SGは特定のストレス刺激に応答して液-液相分離を介して形成される構造体であり、その本体はmRNAおよびRNA結合蛋白質等からなる複合体である。SGの生理機能として、ストレス環境下で蛋白質の翻訳を停止させ、異常蛋白質の蓄積を防ぐ作用を持つ事が報告されている。また我々は、SGが特定のシグナル伝達分子とも相互作用して、細胞死を負に制御する機能を併せ持つ事を示してきた。さらに近年、SGの形成異常が癌、神経変性疾患、ウイルス感染症等の病態にも深く関与する事が見出され、強く注目されている。しかしながら、SG構成分子の詳細は不明であり、その形成機構や機能に関しても未解明の点が多い。本研究では、SGの形成機構、生理機能、および疾患との関連を包括的に解明することを目的に解析を行った。 ストレス顆粒構成分子の同定:ストレス顆粒は液-液相分離によって形成される動的構造体であり、顆粒内分子の流動性が極めて高いため、その精製は困難である。SGの刺激特異的な構成分子を同定するため、近接依存性タンパク質標識法を活利用した新たな手法を開発してSG構成因子の網羅的探索を実施し、新規分子を多数同定することに成功した。本年度は特に、スクリーニングにより得られた各分子の機能解析を進め、特定のRNA結合タンパク質分子がSG形成に必要不可欠な新規コア蛋白質であることを見出した。 SGの形成機構と生理機能の解明:細胞死や免疫応答の制御に関わる複数の分子がSG内に受動的に取り込まれることを見出し、その生理的・病理的意義について解析を行い、SG形成が細胞死を抑制する新たなメカニズムを発見した。また、癌におけるSGの過剰な形成が、癌細胞の細胞死を抑制して癌の悪性化に寄与し得ることを明らかにした。
|