研究実績の概要 |
生殖細胞は次世代へのゲノム情報の伝播を担う唯一の細胞系譜である。哺乳類では、生殖細胞の発生初期、即ち始原生殖細胞の発生期にゲノムワイドなエピゲノム変化(メチル化DNAの減少とヒストン修飾の変化)が観察される。 本研究ではこれまで、マウスES細胞を起点とした雄性生殖細胞発生の試験管内再構成系(Hayashi et al., 2011、Ohta et al., 2017、Ishikura et al., 2016)を用いて、ES細胞、エピブラスト様細胞、始原生殖細胞様細胞や精子幹細胞を含む各分化段階の細胞種を用いてChIPseq、ATACseq、Hi-C解析などのデータ取得・イメージング解析・既報のDNAメチル化データや質量分析法によるエピゲノム修飾基の定量比較解析データとの統合解析を行ってきた(McGill大学ゲノムセンターとの共同研究)。令和4年度は、これらの解析結果を、マウス雄性始原生殖細胞から精原細胞分化過程で起きる核内クロマチン変化(Nucleome dynamics)の包括的理解としてまとめ、論文成果発表を行った(Nagano, Hu et al., 2022)。ヒト始原生殖細胞の発生期においてもゲノムワイドなエピゲノム変化は観察されるが、マウスの知見との差異も報告されつつある。本研究では、さらに、ヒト雄性iPS細胞を起点とした始原生殖細胞の試験管内誘導系(Sasaki et al., 2015、Yamashiro et al., 2018)を用いて同様の解析を行うため、ヒト雄性iPS細胞においてより広範なエピゲノム修飾・クロマチン結合タンパク質についてChIPseqデータの取得を進めた。並行して、より精細な核・クロマチン変化を調べるため、特定のクロマチン領域の可視化のための予備実験や、高解像度顕微鏡による解析法の確立を行った(京都大学物質-細胞統合システム拠点解析センターと共同研究)。
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