研究実績の概要 |
本年度は、細胞膜リン脂質の非対称性の樹立・維持に関与するフリッパーゼについての生化学的特性を解析した。具体的に細胞内膜系に局在するP4-ATPase (ATP8A1, ATP9A, ATP9B, ATP10B, ATP11B)にFLAGタグを付加し、HEK293細胞に発現させ、抗FLAG抗体を用いて精製、試験管内でPtdSerを基質としたATPase活性を評価し、いくつかのメンバーにPtdSerに依存的なATPase活性の上昇が確認された。そこで、具体的にClass 1aとClass6に属するP4-ATPaseを全て欠損させたT-lymphoma株を樹立した。この細胞は、通常状態でよく増殖し、特に明らかな形態的な異常を示さなかった。次いで、フリッパーゼ多重欠損細胞の細胞膜リン脂質の非対称性を解析したところ、定常状態において、多重欠損細胞がPtdSerを露出しないことが明らかとなった。一方、スクランブラーゼを活性化させ、一過的にPtdSerを露出させると、多重欠損細胞は反応が収束した後も、PtdSerを露出し続けた。このPtdSerの異常な露出は、反応収束後2時間をすぎても回復されなかった。この結果は、定常状態におけるPtdSerの非対称性の樹立機構と、非対称性の樹立後の維持機構とが異なることを示した。それでは、この多重欠損細胞はどのように、細胞膜リン脂質の非対称性を樹立・維持しているのであろうか。
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