研究実績の概要 |
細胞のエネルギー代謝恒常性には、多様な環境下におけるエネルギーの合成と消費のバランスが重要である。その大半は、細胞質側のミトコンドリアでATPが合成され、核側の核小体によるリボソーム形成とタンパク質合成でATPが消費されている。このバランスを制御する機序については不明な点が多いが、これらに関わる遺伝子発現がエピゲノムによって協調的に調節されている可能性がある。本研究では、核小体とミトコンドリアの連動性に着目し、新規のエピゲノム制御機構を明らかにすることを目的とした。 具体的には、特異的なsiRNAライブラリーと各種細胞株(がん細胞株、線維芽細胞)を用いて、単独阻害で核小体とミトコンドリアの構造・機能がともに変化する15分子を選出し、その機能解析、相互作用(複合体)の解析、ChIP-Seqによる標的遺伝子の網羅的解析を実施した。とくに、ヒストンH3K36メチル化酵素NSD2/WHSC1/MMSETが細胞老化の防止を担って、細胞周期を促進する遺伝子群の発現を維持し、エピゲノム・代謝リモデリングにおける役割を報告した。NSD2/WHSC1/MMSETを単独阻害すると、細胞死が誘導されることが分かった。また、赤白血病細胞において、高発現するヒストンH3K4脱メチル化酵素LSD1が細胞系譜特異的な転写因子(GATA1, C/EBPalpha)を調節することで、解糖とヘム合成の遺伝子群を共制御するユニークな役割を果たすことを見出した。
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