研究課題
我々は、ユビキチンのN末端を介する新規「直鎖状ユビキチン鎖」を生成するユビキチンリガーゼ(LUBAC)を見出し、LUBACが炎症応答や免疫制御に中枢的な役割を果たすNF-κB経路を制御することを突き止めた。近年、直鎖とK63ユビキチン鎖の混成鎖や分岐鎖など複雑な形態のユビキチン鎖がNF-κB活性化に寄与することが報告され、LUBACと別のE3が協働的に生体防御応答を制御することが示唆されてきた。我々は、LUBACに結合するE3を探索し、新規RING型ユビキチンリガーゼのRNF126とDZIP3を異なる手法で同定した。2019年度までの解析から、RNF126は主にK48ユビキチン鎖を生成する酵素で、LUBACによるNF-κB活性化を強く抑制する機能を持つことを見出した。RNF126のノックアウト細胞では、炎症性サイトカイン刺激に伴うNF-κB活性化は亢進するが、polyI:Cなど病原体関連分子パターン(PAMPs)刺激に伴うインターフェロン産生経路の活性化は減弱することが示された。また、Rnf126-KOマウスはLPS投与に伴う、敗血症モデルで生存性が有意に低下することも明らかになった。一方、DZIP3はK63ユビキチン鎖を生成するユビキチンリガーゼで、LUBACのサブユニットをユビキチン化することで相乗的にNF-κB活性を亢進させることを見出し、質量分析からDZIP3がHOIPのどのLys残基をユビキチン化するか同定に至っている。また、DZIP3のノックアウト細胞、ノックアウトマウス、活性中心変異体のノックインマウス、コンディショナルノックアウトマウスを作製し、マクロファージ特異的ノックアウトマウスの作製を進めている。
2: おおむね順調に進展している
我々は、LUBACとクロストークし、自然・獲得免疫を制御する新規因子としてRNF126とDZIP3というユビキチンリガーゼを同定しており、生化学的解析や細胞レベルでの解析を順調に進めている。また、遺伝子欠損マウスの構築も完了しており、本研究期間内に生理機能や病態との関連についても明らかにできると想定しているため。
1. LUBAC-RNF126クロストークの生理機能解析我々は、RNF126がLUBAC活性化後に抑制因子として働くことを見出している。2020年度はこれまでの研究成果をさらに発展させ、RNF126のユビキチンリガーゼ(E3)としての酵素特性・生化学的メカニズムを明らかにするとともに、LUBAC協調することで各種シグナル伝達経路(NF-κB経路、MAPキナーゼ経路、インターフェロン抗ウイルス経路など)に与える影響を細胞レベルや質量分析を用いた網羅的解析によって明らかにする。さらに、Rnf126-KOマウスを用いてヒト癌細胞のゼノグラフト後の増殖実験、炎症性大腸炎誘発への影響、乾癬など皮膚疾患や自己免疫疾患への影響を明らかにする。2.LUBAC-DZIP3クロストークの生理機能解析我々は、DZIP3がLUBACをK63ユビキチン化することでNF-κBシグナルを相乗的に亢進する正の制御因子であることを突き止めている。2020年度はこれまでの研究成果をさらに発展させ、DZIP3のE3としての酵素特性を生化学的に明らかにするとともに、基質タンパク質に混成鎖・分岐鎖など複雑な形態のユビキチン鎖が付加されている可能性を検討する。また、臓器特異的Dzip3-KOマウスや不活性型Dzip3-KIマウスを用いて、DZIP3の生理・病理機能解析と乳がん細胞転移など疾患との関連を明らかにする。
すべて 2020 2019 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
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