研究課題/領域番号 |
18H02622
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
島岡 要 三重大学, 医学系研究科, 教授 (40281133)
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研究分担者 |
川本 英嗣 三重大学, 医学部附属病院, 助教 (20577415)
朴 恩正 三重大学, 医学系研究科, 准教授 (20644587)
高娃 阿栄 三重大学, 医学系研究科, 助教 (50643805)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | エキソソーム / 細胞外小胞 / 細胞接着分子 / インテグリン / 免疫 / 炎症 |
研究実績の概要 |
リンパ球が生体内で移動し目的の遠隔臓器に到達するプロセスであるホーミングはどのように制御されているのだろうかという学術的な問いに答えるべく、本研究では、リンパ球自身が分泌するエキソソームが先回りして遠隔臓器に作用し、ホーミングを制御しているのではないかという仮説を提唱し、検証することを目的とし研究が進行している。リンパ球ホーミングが過少であれば、特定の病原体に対する獲得免疫が効率的に発揮できないので生体防御能が低下する。しかし一方リンパ球ホーミングが過剰であれば、炎症性腸疾患や多発性硬化症に見られるような組織障害につながる可能性がある。このようにリンパ球ホーミングのバランス制御は生体防御と組織傷害の調和的調節を図るために重要であるが、その詳細は不明である。細胞表面に発現する接着分子インテグリンα4β7は、腸管粘膜に発現するインテグリンリガンドであるMAdCAM-1にケモカイン活性化依存的に結合することにより、リンパ球を腸管組織特異的にガイドする。さらにリンパ球が分泌するインテグリンα4β7を高レベルで発現するエキソソームが遠隔臓器に作用しホーミングを負に制御する重要なブレーキとして機能する可能性がある。本研究ではこの研究仮説をさらに発展させ、インテグリンα4β7を高レベルで発現するエキソソームがリンパ球の腸管粘膜特異的ホーミングを負に制御する分子メカニズムを解明し、さらに炎症部位へのリンパ球浸潤抑制効果を炎症性腸炎モデルで検討する。この研究計画を実行・達成することにより獲得される科学的知見は、生体防御機能の適切な調節方法を明らかにすることにより、たとえば経粘膜ワクチンの効果を増強するバイオロジカルな治療法の実現につながると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エキソソーム精製分離を確立した:レチノイン酸処理下のリンパ球活性化は腸管での抗原提示を実験的に模倣し、腸管ホーミング能をもつインテグリンα4β7を高レベルで発現するリンパ球をin vitroで誘導できることを確立した。培養上清に分泌されたインテグリンα4β7を高レベルで発現するエキソソームを超遠心により分離する方法を確立した。分離したエキソソームの品質は粒子径分布(DLS散乱光分析)とエキソソームマーカーCD9発現(ウエスタンブロット)で確認した MAdCAM-1結合能の検討した:エキソソームは直径が小さすぎて直接フローサイロメーターでの解析は困難であるので、マイクロビーズ表面に固相化してFACSで解析する方法を確立した。インテグリン発現レベルを確認後、MAdCAM-1-Fcを用いて結合を検討し、活性を定量的に測定する方法を確立した。 エキソソームの生体での臓器分布:競合的ホーミングアッセイ(Park, JCI 2007)を応用して、エキソソーム体内臓器分布を高感度で評価した。蛍光色素でインテグリンα4β7を高レベルで発現するエキソソームを緑に、インテグリンα4β7の発現を抑制したエキソソームを赤でラベルし同数を混合後、レシピエントマウスに静注投与した。一定時間後腸管を含む主要臓器を切り出し、緑と赤のシグナル比を蛍光顕微鏡下に比較検討し、色素の影響を除外するため赤と緑の逆の組み合わせも検討した。 これらの研究成果によりエキソソームの生体内分布の制御システムにおける細胞接着分子インテグリンα4β7のMAdCAM-1への接着性と相互作用が果たす役割が、腸管粘膜組織という重要な臓器において明らかすることができた。さらに、エキソソームの生体内分布をより正確に定量的に評価するアッセイ方法である競合的ホーミングアッセイを考案し、その妥当性を実験的に検証することができたので、研究の進捗状況を上記のように評価するに至った。
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今後の研究の推進方策 |
インテグリンα4β7を高レベルで発現するエキソソーム中のマイクロRNAを解析し、血管内皮細胞でのMAdCAM-1発現抑制効果等のホーミング抑止効果発揮の作用機序を明らかにする。MAdCAM-1発現抑制効果はインテグリンα4β7を高レベルで発現するエキソソームが非常に強く見られたことより、インテグリンα4β7を高レベルで発現するエキソソームに優位に発現するマイクロRNAをサブトラクション方法などで比較検討することにより候補分子を絞り込む。 マイクロRNAプロファイルの比較検討:インテグリンα4β7を高レベルで発現するエキソソームと低レベルで発現するエキソソーム中のマイクロRNA発現プロファイルをディープシークエンシングにより網羅的に比較解析する。実施は本学遺伝子解析施設の受託サービスを使用する。発現量に著明な差があるマイクロRNAは、PCRで結果を確認する(Lee, Park, Sci Rep 2015)。 インテグリンα4β7を高レベルで発現するエキソソーム由来マイクロRNAの機能検討:高発現がPCRで確認されたマイロRNA候補に対して、その機能を阻害(Antagomir)または過剰発現(Mimetic)する試薬を血管内皮細胞にトランスフェクションし、マイクロRNA依存性にMAdCAM-1やケモカイン発現を変化させる効果を検証する。 マイクロRNAの作用機序解析:上記で観察される効果が、RNA干渉による発現阻害であることを検討するために、バイオインフォマティクス(TargetScan)を用いて、MAdCAM-1やケモカインなど標的分子mRNAの3’UTRに当該のマイクロRNA結合配列の存在を確認する (Lee, Park, Sci Rep 2015)。 これらの検討により、エキソソームによるリンパ球ホーミングの制御の分子メカニズムの詳細を明らかにすることができる。
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