研究実績の概要 |
リンパ球が生体内で移動し目的の遠隔臓器に到達するプロセスであるホーミング (Homing) はどのように制御されているのだろうかという学術的な問いの重要な部分を明らかにすることができた。本研究では、リンパ球自身が分泌するエキソソームが先回りして遠隔臓器に作用し、ホーミングを制御しているという仮説を、マウスを用いて検証することができた。本研究の中心的課題であるリンパ球ホーミングの適切な制御が特に重要である理由は、感染症防御の最前線である粘膜組織へのエフェクター/メモリーリンパ球ホーミングが過少であれば生体防御能が低下する、一方過剰であれば組織障害につながる可能性があるためである。本研究により明らかになったホーミングのバランス制御メカニズムが、リンパ球が分泌するエキソソームのうち、その表面にホーミングレセプターであるインテグリンa4b7を高発現するものが、遠隔臓器に作用しホーミングを負に制御する重要なブレーキとして機能する様式である。インテグリンa4b7を高発現するエキソソームは、特定のマイクロRNA (miR-132, -212, -431, -455, -670)を豊富に含むことを明らかにした。これらのマイクロRNAは血管内皮細胞に発現するホーミング受容体インテグリン・リガンドであるMAdCAM-1, ICAM-1, VCAM-1の発現をエピジェネティックに抑制することを明らかにした。本研究ではエキソソームがリンパ球の腸管粘膜特異的ホーミングを負に制御する分子メカニズムを解明し、さらに炎症部位へのリンパ球浸潤抑制効果を炎症性腸炎モデルで検討した。炎症状態ではリンパ球が分泌するエキソソームに加えて、腸管上皮が分泌するエキソソームが炎症性メディエーターの発現制御に重要な役割を果たしているという新規知見を見いだした。
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