研究課題
2019年度までに、HSF1-SG02複合体が熱ストレスによるHSP70遺伝子の転写誘導を促進することを明らかにした。さらに、この複合体は直接Pol IIと相互作用して、そのリクルートを促すことを示唆した。2020年度は、HSF1-SGO2がPol IIのリクルートを促進することを検証すると同時に、その機構のプロテオスタシス制御における効果を明らかにした。新たにin vitroでPol IIと相互作用しないSGO2変異体を作成し、MEF細胞内の内在性SGO2を相互作用変異体に置換して、共免疫沈降法によって相互作用のないことを確認した。同時に、この細胞を用いてHSP70プロモーター上へのHSF1、SGO2、およびPol IIのリクルートをChIP法で調べた。その結果、変異SGO2に置換することで、HSF1とSGO2自身のリクルートの減少はなかったが、Pol IIリクルートは顕著に低下した。同時に、HSP70の転写量も減少した。つまり、HSF1-SGO2-PolII相互作用を介するHSP70転写誘導の分子機構が明らかとなった。次に、HSF1-SGO2複合体のプロテオスタシス容量や細胞生存に与える効果を調べた。MEF細胞の内在性HSF1およびSGO2をそれぞれと相互作用しない変異体に置換すると、熱ストレス条件下で不溶性ユビキチン化タンパク質がより蓄積し、細胞生存率が低下した。さらに、プロテオスタシス容量のレポーターとしてルシフェラーゼを用いることで、変異HSF1あるいはSGO2への置換は、熱ストレス後のプロテオスタシス容量の回復を顕著に遅延させること、そして病気と関連するGFP融合ポリグルタミンタンパク質(GFP-polyQ81)の凝集体形成を促進させることが分かった。したがって、HSF1-SGO2複合体はプロテオスタシス容量の維持を介して細胞生存に働くことが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、これまで未解明であったHSF1によるRNAポリメラーゼII(Pol II)やMediatorを含む転写開始前複合体形成の調節機構を解明するのが目標である。これまでに、予定した実験をおおむね遂行した。その結果、HSF1と染色体関連因子SGO2との複合体を介する直接的なPol IIのリクルートによる新たな転写調節機構を明らかにすることができた。さらに、これらの新規の転写調節機構が、熱ストレス条件下での細胞のプロテオスタシス容量および神経変性疾患モデルに与える効果について明らかにすることができた。
興味深いことに、シュゴシンにはSGO1とSGO2が存在しているが種間の相同性は低い。一方で、ヒト細胞でもシュゴシンの関与が示唆される。今後は、ヒト細胞での熱ショック応答におけるシュゴシンの役割、およびヒトがん細胞の増殖と進展における効果を解明する。また、引き続きマウス細胞を用いて、HSF1によるMED12を中心としたメディエーターを介する転写開始前複合体形成と転写の誘導機構を明らかにする。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 1件) 備考 (2件)
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