研究課題
IgG4関連疾患であるミクリッツ病は、血清IgG4の異常高値と唾液腺や涙腺の線維性慢性炎症を伴い、その原因や病態については未だ不明な点が多い。ミクリッツ病の顎下腺組織より得られたリンパ球を直接的に解析した結果、CD4とCD8を共に発現する濾胞ヘルパーT細胞(DP-Tfh細胞、あるいはCD8loTfh細胞)が検出された。DP-Tfh細胞は細胞傷害性顆粒を有し、一部の小児扁桃腺にも存在している。COVID-19の剖検症例の検討から、重症化と免疫組織中の細胞傷害性Tfh細胞との関連を示唆する報告が相次ぎ、DP-Tfh細胞の機能的意義の解明は感染症を含む他の慢性炎症の病態の理解につながることが期待されている。臨床データと各種のリンパ球サブセットとの比較検討やマイクロアレイのパスウエイ解析などの結果に基づいて検討を重ねたところ、DP-Tfh細胞はメモリーB細胞を標的としている可能性が示唆された。我々の解析ではDP-Tfh細胞はCD70を高発現し、そのリガンドのCD27は記憶B細胞に高発現している。また共培養実験の結果からDP-Tfh細胞は通常のTfh細胞と比較して、B細胞ヘルパーとしての抗体産生能は低い結果が得られた。加えてDP-Tfh細胞のパスウエイ解析から、IL-2とIL-7を添加した無血清培地で通常のTfh細胞(CD3+CD4+PD1+CXCR5+)を培養すると、CD8を発現するDP-Tfh細胞へ分化することが判明した。Tfh細胞はB細胞の分化過程に影響を及ぼし胚中心B細胞、形質細胞、記憶B細胞への分化を調節する一方、IL-2とIL-7の存在下ではDP-Tfh細胞へと機能分化して、記憶B細胞の機能を抑制している可能性がある。IL-7は線維芽細胞などから産生され、炎症の遷延状態のDP-Tfh細胞はネガティブフィードバックのような炎症収束機構として位置づけられるかのもしれない。
2: おおむね順調に進展している
これまでに経験のない新型コロナウイルスの感染拡大に遭遇し、年度当初は研究環境への影響など予想外の事態が危惧され、実際に臨床検体の解析が予定通りではない状況もあった。しかしバックアップとして凍結保存していた細胞組織の試料の解析などを進め、想定されていたような影響は限定的であったと考えている。しかしコロナ禍はしばらく続くことが見込まれるため、普段からの感染予防や実験の準備を心がけて次年度の研究に臨みたい。
細胞傷害性DP-Tfh細胞に関する本研究から、IgG4関連疾患における機能的な意義について示唆に富む結果を見いだすことができた。しかし一方ではTfh細胞の機能制御機構の全体像はまだわからないところがあり、今後の検討課題と言えよう。本研究は最終年度を迎えるため、研究成果を公表すべく論文発表に向けた準備を進めてゆく。細胞傷害性DP-Tfh細胞(あるいはCD8loTfh細胞)は通常のTfh細胞に由来し、記憶B細胞の抗体産生能を阻害するフィードバック機構を担っている可能性が示唆される。特にIgG4関連疾患では線維芽細胞などからのIL-7の産生によって、CD8loTfh細胞がより多くなる環境となっているのかもしれない。COVID-19に関する最近の研究を調べると、細胞傷害性Tfh細胞が病態の重症化に関連するとうい報告が相次いでおり、本研究は免疫関連疾患の病態背景のみならず、重症感染症における生体防御機構としての意義についても考えながら最終年度の研究を推進したい。
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