研究課題
細胞は遊走時に増殖せず、増殖時に遊走を停止することが知られており「増殖・遊走ダイコトミー」と呼ばれている。がん細胞も同様であり、抗がん剤に対する抵抗性の原因とされている。アクチン結合分子Girdinは、神経芽細胞やがん細胞の遊走を促進する分子であるが、最近、Girdinはアミノ酸輸送複合体CD98の局在を制御して、mTORC1の活性を抑制すること、さらに細胞分裂時の紡錘体チェックポイントの制御分子であるMad2と複合体を形成することを見出した。本研究の目的は、Girdinの機能解析を基点にして、増殖・遊走ダイコトミーの分子機序の理解を目指すことである。本年度は下記の検証を行った。(1)Girdin/CD98複合体の機能解析と意義:これまでにGirdinはCD98hcの細胞内ドメインに直接結合することを証明している。本年度は上記結合が細胞内アミノ酸の組成に与える影響をアミノ酸アナライザーで検証した。Girdin/CD98の結合により、複数の必須アミノ酸の細胞内濃度の低下とmTORC1活性の低下を誘導することが示された。(2)GirdinとMad2の結合の生化学的解析と意義:現在までにGirdinのC末端ドメインとMad2が結合することを見出している。本年度はMad2が紡錘体チェックポイントの重要な因子であることから、Girdinと細胞周期の関連を調べたが明らかな相違はみられなかった。(3)GirdinとCD98およびMad2の結合のスイッチ機構:GirdinはAkt、MAPキナーゼ、Src、Cdk5、EGF受容体によってリン酸化されることが報告されている。これらのキナーゼの活性化体の過剰発現がGirdinとCD98との結合に与える影響を検証した。その結果、GirdinのN末端がMAPキナーゼでリン酸化を受け、CD98複合体との結合を増強することを生化学的手法で明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
GirdinとCD98複合体の結合の意義については研究実績の概要で記したように複数の結果が得られ、論文として発表した。Mad2との結合については生化学的な直接結合の証明は可能であったが、その細胞生物学的な意義については研究の進捗がやや遅れている。
Girdinが増殖・遊走ダイコトミーを制御している可能性について、細胞生物学的手法で検証をすすめるとともに、臨床の病理検体を用いた検証も進める。具体的には食道癌の術前化学療法・放射線療法の前後におけるGirdinの発現レベルを免疫組織染色によって評価することを予定している。これによりがん細胞の遊走を制御するGirdin分子の発現が抗がん剤への抵抗性に関わっている可能性を検証する。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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