研究課題
細胞は遊走時に増殖せず、増殖時に遊走を停止することが知られており「増殖・遊走ダイコトミー」と呼ばれている。遊走能の高いがん細胞も同様であり、抗がん剤や放射線治療に対する抵抗性の原因とされている。アクチン結合分子Girdinは、がん細胞の集団的な遊走(collective migration)を促進する分子だが、一方で、そのリン酸化状態が増殖・遊走ダイコトミーを制御することも報告されている。本研究ではGirdinが放射線によるDNA障害に対する高感受性にも関わっていることを見出した。このことはGirdinががん細胞の遊走能を促進する機能を有しながら、同時に放射線治療感受性も高めるという複雑な機能を有していることを意味している。本年度は下記の実験結果を得た。(1)Girdinと細胞周期異常の関連:Girdin高発現HeLa細胞に対して紫外線(UVC)を照射すると、コントロール細胞に比較して有意に細胞死をきたすことを見出した。Girdinを発現抑制したHeLa細胞では逆の観察結果が得られた。このことはGirdinの発現とDNA損傷に対する感受性の間に関連があることを示している。Girdin高発現細胞の細胞周期を観察したところ、M期とG1期の有意な延長が見られ、このことが高い紫外線感受性と関連があるものと推測された。(2)GirdinとMad2の結合の生化学的解析と意義:昨年までにGirdinのC末端ドメインとMad2が結合することを見出している。上記の紫外線感受性におけるGirdin/Mad2相互作用の意義を多角的に検証したが、有意な関連を見出すことができなかった。一方、Girdin高発現細胞ではMad2の発現がmRNAおよびタンパクレベルで上昇していることを見出した。現在、このMad2発現上昇の意義について検証中である。
2: おおむね順調に進展している
研究計画の一部において、当初の仮説とは異なる結果が得られ、研究の方向性を変更している。最終的には研究対象としている分子の放射線感受性における意義を解明できつつあり、おおむね順調に進展しているものと判定した。
(1)Girdin高発現と細胞周期異常の関連について、M期とG1期の有意な延長が見られ、このことが高い紫外線感受性と関連があるものと推測された。今後は、細胞周期を同調したがん細胞と非同調の細胞で、本細胞周期異常が観察されるかどうか検証する。(2)培養がん細胞でGirdinの高発現がMad2の高発現と関連があることが示された。今後は本発現相関が実際にヒトのがんでもみられるかどうか、主に食道がんの生検標本および手術標本を用いて検証する予定である。(3)放射線療法の前後の食道がんの病理検体(約30例)を得ているので、それを用いて食道がんにおけるGirdinの発現が放射線療法の奏効率と関連があるかどうか、免疫染色を用いて検証する。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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