(1)正常組織アイデンティティを特定するエピジェネティック修飾の同定 マウス膵臓および肝臓上皮幹細胞スフェロイドをの分化能を確認するため低接着表面上で浮遊培養を行ったが、両者とも同様の組織形態を示し、完全に分化した細胞は得られなかった。そこで、同系マウスの腎臓皮膜下にスフェロイドを移植したところ、肝臓および膵臓スフェロイドはそれぞれ胆管上皮様、膵島様に分化し、形態的に区別された。これらスフェロイド由来の細胞はレシピエントの体内で2ヶ月以上安定的に維持されたが、定着の効率は低く、移植直後の細胞生存率を上げるための処置が必要であると考えられた。また、Nkx2-2およびPdx1の強制発現による肝臓から膵臓への形質転換の可能性を検討した。これら2遺伝子を発現するレンチウイルスを作製して肝臓スフェロイドに感染させたが、両遺伝子とも発現が認められなかったことから戦略の見直しが必要となった。 (2)正常幹細胞の腫瘍化を誘導するエピジェネティック修飾の同定 BRAF V600E変異型でWntシグナルの亢進が起こっていない大腸がんの腫瘍化機構を解析した。mRNA発現プロファイルとオープンクロマチン領域の比較により、エピジェネティック変異によるMYCの安定的発現が腫瘍化に重要であると考えられた。野生型およびBRAF V600E変異型のヒト正常大腸上皮幹細胞スフェロイドにMYC遺伝子を導入したところ、BRAF変異およびMYCの過剰発現によってスフェロイドの増殖率が上昇したが、Wntリガンド非依存性の増殖能は獲得できなかった。 これらの細胞をin vitroで分化させたところ、BRAF変異では終末分化に影響はなかったが、MYCの過剰発現によって分化が完全に抑制された。これらの結果から、Wnt経路非依存的な増殖にはMYCに加えてさらに別の必要因子が協調的に関与していることが示唆された。
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