母体内の胎児は母体由来のアロ抗原や病原性微生物といった様々な免疫刺激に暴露される危険性がある。しかし、胎生期における病原性微生物を認識する免疫反応、特に樹状細胞(dendritic cell: DC)についてはその存在、活性化機構や免疫応答誘導機構は明らかになっていない。本研究では胎生期の胎仔肝臓中に樹状細胞様細胞と同細胞の前駆細胞を同定した。 胎仔肝臓中に同定した樹状細胞前駆細胞(common dendritic progenitor: CDP)は成人期骨髄中に存在するCDPと同様にLin-c-kit+CD135+CD115+CD127の表現型であった。この前駆細胞を純化し、in vitro colony forming assayを行ったところ、僅かに単球へと分化した。また、同前駆細胞を樹状細胞分化誘導サイトカインであるFlt3-ligand、SCFとCXCL12を発現するストローマ細胞と共培養したところ、conventional DC(cDC)とplasmacytoid DC(pDC)へと分化した。 また、このcDCにおけるCD8αとCD11bの発現を検討したところ、ほとんどのcDCがCD11bを発現し、CD8αを発現するcDC1は存在しなかった。次に胎仔肝臓由来のcDCをBALB/cマウス由来のT細胞と共培養し、混合リンパ球反応実験を行ったところ、CD8+T細胞よりもCD4+T細胞への強い増殖誘導能を有していた。また胎仔肝臓由来cDCをCpGやPolyI:Cで刺激を行うとCD8+T細胞の増殖誘導能が増強し、CD4+T細胞への増殖誘導能が低下した。次に胎仔肝臓由来cDCをLPS、CpGとpolyI:Cで刺激後、様々な炎症性サイトカインmRNA発現を検討した。この結果、胎仔肝臓由来cDC はLPS、CpG、PloyI:C刺激後、抑制性サイトカインであるTGF-βとIL-10のmRNA発現レベルが成体期cDCよりも有意に高かった。 これらの結果から、本研究課題の目標であった胎生期の樹状細胞前駆細胞と樹状細胞の同定とこれら細胞の分化能と機能を明らかにする目標は達成出来た。
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