研究課題/領域番号 |
18H02645
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研究機関 | 愛知医科大学 |
研究代表者 |
都築 忍 愛知医科大学, 医学部, 教授 (00342965)
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研究分担者 |
安田 貴彦 独立行政法人国立病院機構(名古屋医療センター臨床研究センター), その他部局等, 分子診断研究室長 (20723977)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | MEF2D / 急性リンパ性白血病 / 転写因子ネットワーク |
研究実績の概要 |
本年度は、MEF2D転写因子の融合遺伝子(MEF2D-HNRNPUL1, MEF2D-BCL9など)を有する急性B細胞リンパ性白血病(MEF2D-ALL)の発症・維持機構の解析を主に行い、論文が受理された。以下、概要を示す。 (1)マウスの未分化B細胞(胎児肝由来プロB細胞)にレトロウイルスベクターでMEF2D融合遺伝子を発現させて成獣マウスに移植する系で、MEF2D融合遺伝子にはB細胞の分化をプレB細胞受容体を発現する特定の分化段階にとどめおく機能があること、さらにその分化段階から白血病が発症することが明らかとなった。 (2)上記から、ヒトMEF2D-ALLも同様の分化段階にあるという仮説をたて、細胞株8種と臨床検体細胞において検討したところ、すべてプレB受容体を発現していることを確認した。また、多数臨床検体の遺伝子発現データ解析もこのことを支持した。 (3)ヒトMEF2D-ALL細胞株と臨床検体の解析から、MEF2D-ALLはプレB細胞受容体が発するシグナルが、細胞の増殖・生存に必須であること、したがってこのシグナルを遮断する薬剤が治療効果を有することを、マウスへの細胞移植・治療実験により明らかにした。 (4)MEF2D-ALL維持の背景には、特異的な転写因子ネットワーク(core regulatory circuitry)が存在し、このネットワークにはMEF2D融合蛋白をはじめ、SREBF1(sterol responsive element binding factor 1)が必須のコンポーネントであること、さらにこのネットワークの成立には、プレB細胞受容体からのシグナルによって活性化されるCREB1が必須であることも判明した。 (5)SREBF1はFGH10019などの薬剤で機能を抑制可能であり、実際治療効果があることをマウスを用いた治療実験で確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスを用いた前方視的実験方法と、ヒト白血病細胞を用いた後方視的実験方法をあわせることで、MEF2D-ALLの成立・維持機構の一部を明らかにすることができた点で、研究は当初予定以上に進展した。一方で、MEF2D-ALLに集中した結果、その他のALLについての解析が遅れているが、総合的に判断して、概ね順調であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、Ph-like急性リンパ性白血病を主題として取り組む計画である。本白血病にも特異的な融合遺伝子が発現しており、マウスを用いた白血病のモデリングやヒト細胞株を用いた解析から、この白血病に特徴的な転写因子ネットワークの存在を示唆する結果を得ている。このネットワークは、細胞外からのシグナルに支配されており、したがってこのシグナルを抑制する薬剤には、白血病細胞の増殖を抑制する機能があることもわかりつつある。マウスを用いた前方視的実験方法と、ヒト白血病細胞を用いた後方視的実験方法をあわせることで、難治性の本白血病の成立・維持機構の解明と治療法の提案を行うことを目標とする。
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